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「まるで本当の親子のようだった」児童養護施設の職員と子どもたち

――どのような児童養護施設を見学されましたか?

有賀 千葉県にある児童養護施設を2カ所まわりました。片方は子どもたちが学校に行っている時間帯に、もう片方は子どもたちが学校から帰ってきて、施設内で過ごしている時間帯にお話を伺いました。どちらの施設長さんもとても良い方で、子どもたちのことをすごく思っていることが伝わってきましたね。後者の施設では廊下で立ち話している時、子どもが施設長さんに話しかけてきたんですけど、その様子が本当に親子みたいでした。

――子どもたちにもお話を伺ったんですか?

有賀 施設へ伺った時にたまたま絵を描くワークショップをしていたので、「絵がうまいね」程度の会話はしましたけど、踏み込んだ話はしていないんです。目の前にいる子どもたちは現在進行形の当事者なので、私の中で取材の一線を引いたところがあります。

 子どもがどういう問題や気持ちを抱えているかは、自分の想像力を働かせて描き、具体的な取材は、いつも子どもと一緒にいる施設職員の方々や社会的養護者の支援団体の方々、そして施設出身の当事者に伺っています。

 施設出身の当事者は、主に30歳前後の方々ですね。それくらいの年齢になると、当時の気持ちを言語化できるようになっている方が多いんです。

 お話を伺った一人は山本昌子さんで、児童養護施設で育った経験を講演会で話したり、虐待された経験のある70人が登場するドキュメンタリー映画「REALVOICE」の監督を務めたりしている方です。彼女の映画は私も観に行ったんですよ。

施設内恋愛を禁止する施設も少なくない

――取材を重ねる中で、印象的だったお話はありますか?

有賀 恋愛に関する話でしょうか。自分のことをずっと「好き」と言ってくれる相手を探し続けている印象を受けました。『零れるよるに』では「共依存」を描いていますけど、施設出身者には愛着障害の方もいるんです。

 施設内の恋愛についても伺いましたけど、それは人それぞれでしたね。施設の子と付き合ったことはないけど彼氏は途切れなかったという子もいれば、施設内の廊下でキスしている子たちを見た、という意見もありました。

 中には、施設内恋愛を禁止している児童養護施設もあります。それは意味なく「規則だから」ということではなく、施設には性被害を受けて在籍している子どももいるからです。安心できるはずの生活圏内でもし性的な行為があった場合、対応が難しいのだと思います。

(作中では、施設の敷地内でキスしたことを施設職員が本気で怒るエピソードがあります)

2024.05.31(金)
文=ゆきどっぐ