選択肢を選ばざるを得なかった女性たち

 リキの切実な貧困描写で「かわいそう」と思うかもしれませんが、苦しみを抱えている女性はリキだけではありません。悠子は長い不妊治療の末に子どもをあきらめている身。それでも夫の基はバレエの名家の血筋を絶やしたくないという血統を重視する母・千味子(黒木瞳)の影響もあり、代理出産に意欲的。家族の問題に対して蚊帳の外になっています。

 リキの叔母・佳子(富田靖子)はリキに「自由になれる方法」として結婚を勧めます。結婚すれば一人前という話は『虎に翼』にもありましたが、独身者をよしとしない風潮や風当りの強さはいまだにある。妻という身分を得れば、世間では大きい顔ができると思いながらも、佳子はさびれた田舎で独身のまま亡くなります。

 そして悠子の友人・りりこはアセクシュアル。家族制度から抜け落ちるマイノリティな存在として、しっかり世の常識に疑問を投げかけていきます。さまざまなタイプの魅力的な女性たちを描き分けながら、それぞれの苦悩とさまざまな理由でその「選択肢を選ばざるを得なかった」状況を示してくれています。

 本作の主題である代理出産に関しても、こうみると本当の意味で利益を得るのは、リキでも悠子でもなく、基。結局恩恵を受けるのは男だけなのではないかというところも考えなくてはいけないポイントです。一見スマートで優しげな基は、本人が無自覚なところで傲慢さがにじみ出ている。代理母を受け入れるリキの体を管理しようとする姿勢もおぞましく、この絶妙なバランスを表現できるのは稲垣吾郎だけ! と感じました。

 ほかにもリキと過去に不倫をしていた元上司・日高(戸次重幸)や、女性向け風俗店のセラピスト、ダイキ(森崎ウィン)も注目の男性陣です。

 貧困や女性蔑視、差別……重いテーマを抱えながらも、疾走感のあるエンターテインメントとなっている本作がどう着地するのか。そしてリキが得る幸せとは。タイトルの意味も考えながら見届けたい作品です。

『燕は戻ってこない』

毎週火曜 22:00放送(NHK総合)
再放送 毎週金曜 0:35放送木曜深夜
https://www.nhk.jp/p/ts/J6J9VGVZ81

綿貫大介

編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
Instagram @watanukinow
X(旧twitter) @watanukinow

2024.05.24(金)
文=綿貫大介