落語とはひと味違った結末に込めたテーマ

──草彅さんが演じた格之進という役どころは、落語だと人情噺として許しを与える実直な人物としてのみ語られます。ですが「仇討ち」の要素が加わったこともあって、今作にはひと味違った結末が待っています。

白石 この映画の格之進は、最後に少しだけ清廉潔白の道から外れる選択をします。正義を貫いて藩を追われることになった格之進は、いわば杓子定規な人物でした。

 

 だけど敵役(かたきやく)が残した言葉で気づきを得て、自分で決めた強固なルールを破って人々の感情に誠実に寄り添い、本当に守るべきものがなんなのかをはっきりと認識する。それは普遍的かつ、現代的なテーマだと思ったんです。

 なんでもかんでも正しさを求めることが、果たして正義と言えるのか。それが映画に込めた裏のテーマとも言えます。 

しらいし かずや 1974年、北海道生まれ。中村幻児監督主宰の映像塾に参加した後、若松孝二監督に師事。助監督時代を経て、2013年に『凶悪』で日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞ほか多くの映画賞を受賞。

 その後『日本で一番悪い奴ら』(16年)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)、『孤狼の血』(18年)など、多くのエンターテインメント作品を送り出してきた。今作が長編14本目と、多作ぶりでも知られている。

『碁盤斬り』
INTRODUCTION
『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)など、多くの作品で高い評価を受ける白石和彌監督が主演に草彅剛を迎え、初めて挑む痛快時代劇。古典落語の「柳田格之進」に“仇討ち”が加わることで、白石監督らしいリベンジ・エンターテインメントに仕上がっている。
 格之進のひとり娘・お絹役を清原果耶、敵役の武士・柴田兵庫を斎藤工が演じるほか、小泉今日子、市村正親、國村隼など錚々たる顔ぶれが集結し、武士の尊厳と親子の情愛を描く。

STORY
 元は彦根藩の藩士であった柳田格之進は、身に覚えのない罪を問われた上に妻を喪い、故郷を追われて娘のお絹とふたり、江戸で貧しくも清廉潔白な日々を送っている。唯一嗜む囲碁にも表れる実直な人柄は、金満の両替商・萬屋源兵衛にも影響を及ぼすほど。
 だが、碁の最中に起きたある出来事をめぐり嫌疑をかけられる。またも誇りを傷つけられる一方、冤罪事件の真相を知った格之進は復讐を決意。お絹は仇討ち成就のため、自らが犠牲になる道を選び…。

STAFF & CAST
監督:白石和彌/脚本:加藤正人/出演:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼/2024年/日本/129分/配給:キノフィルムズ/5月17日公開 

週刊文春CINEMA 2024春号(文春ムック)

定価 660円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

碁盤斬り 柳田格之進異聞(文春文庫 か 85-1)

定価 792円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.05.18(土)
文=渕 貴之