![テーマはお茶と発酵。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/-/img_d161b3f12b00882859db28f535fb8def137087.jpg)
その瞬間にその場でしか味わえない、作りたてのおいしさを味わうというデザートの醍醐味。その魅力を存分に堪能できる、デザートコースを提供するお店が増えています。
カウンターに腰かけ、シェフの言葉に耳を傾けながら目の前で仕上げられるひと皿、ひと皿に胸を高鳴らせ、香りや温度、音を感じ、味わいを楽しむひとときは、まさに至福の時間。
とっておきのデザートコースを味わいに、いざ!
パティシエの技術と日本の食文化が融合
![オーナーシェフの田中俊大さん。主役のお茶とデザートを引き立てるべく、千利休に倣って黒い着物を着用。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/-/img_9ea805b4dcb8e225dba9d05e327701bc110467.jpg)
日本茶と発酵を織り交ぜたデザートコース「茶湊流水」でいぶし銀のような存在感を放っているのが、2022年、東京・神楽坂にオープンした「VERT」です。
「『茶湊流水』は、行雲流水(物事に執着せず、自然の成り行きに身を任せることを意味する言葉)になぞらえた名前です。湊は人、物、事、文化が集まる場所。それらを自然体で受け入れ、お茶をもっておもてなししたいという思いをこめて、スタッフと一緒に名づけました」と話す、オーナーシェフの田中俊大さん。
![器や茶器も、丹精こめてつくられた作家たちの作品を使用。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/8/-/img_1864a78e27ab7795be298076bac7bb8995977.jpg)
パティシエとして活躍してきた田中さんがお茶との魅力に開眼したのは、6年ほど前。自身の故郷である福岡県の山科茶舗のお茶に出合い、そのおいしさや繊細な味わいと甘みとともに、さまざまな品種があることや味の幅の広さに衝撃を受けたといいます。
そして、「VERT」をオープンし、デザートにお茶を合わせるのではなく、お茶とデザートが「2つでひとつ」のおいしさを完成させるという、研ぎ澄まされた感性と独自性が光るデザートコース「茶湊流水」をスタート。デザインをそぎ落とし、黒と緑、金で統一された店内は、まるでモダンな茶室のようです。
自らの足で茶畑を訪れて生産者と交流し、五感で感じた茶畑の情景をデザートコースに落とし込むという田中さん。そのお茶と合わせて、デザートに使用する旬のフルーツも日本各地から上質なものを厳選しています。それらの自然な甘みや旨み、香り、酸味などを引き出すために使われているは、発酵の手法。
![一滴に込められたおいしさを。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/-/img_cfa5da024167e35509f9d674fb23481e72609.jpg)
お菓子やデザートには砂糖を使うことが常ですが、「素材の味わいを生かしたいと思うとき、砂糖の甘みは邪魔になります。お茶の風味は繊細で甘みもあり、フルーツもそもそもそれ自体が甘いのに、デザートでその甘みを生かせないのはどうなんだろう、と思ってしまって。発酵をよく知る料理人から習得し、随所にそれを取り入れてコースを組み立てています」と、語ります。
内容は月ごとに替わり、目の前で淹れられるお茶とつくり上げられるデザートを、五感で堪能できます。2024年5月のコースを見ていきましょう。
◆松雪園 田口雅士 一番茶焙じ茶
![「松雪園 田口雅士 一番茶焙じ茶」。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/5/1/-/img_5184f400d77cb46536bb27758ae0292732666.jpg)
コースへの誘いとして、まずは、お茶を一服。田中さんがそのときどきに特別な思い入れを持つお茶や、品評会で一等一席の評価を得た高級茶などが供されます。5月には、田中さんが生産者の元を訪ねて一緒に火入れした、岐阜県東白川村「松雪園」のほうじ茶を。
東白川村のヒノキの台にのせて、その香りとともに。ほんのりとした香ばしさと清々しさが体に染み渡ります。
◆立夏、茶ノ蔵 森本健二 越原
![柏餅「立夏」、煎茶「茶ノ蔵 森本健二 越原」。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/5/b/-/img_5b42f67c9da0cccf2a593c030d44abae60495.jpg)
立夏をイメージした柏餅を、岐阜県東白川村「茶ノ蔵」の煎茶とともに。「茶ノ蔵」の森本さんの紹介された赤みその五平餅に想を得て、柏餅の餡には赤味噌を使い、ベルガモットの香りをまとわせて。餡の塩気とさわやかさに、お茶のすっきりした味わいと苦みがマッチします。
2024.05.21(火)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵