この記事の連載
うつわに対してお題を考えて「ひとり大喜利」するのが楽しい
これは韓国の釜山(プサン)の骨董品通りで手に入れたもので、戦争中に国策的に作られたものらしいんですね。詳しいことは分からないんですが、戦争中でも装飾を付けてしまうところにクレイジーな執念を感じるというか、欠かせないものなんでしょうね。ごはんは当時、白米だったのか雑穀入りだったのか。スープ皿に入れていたのはわかめスープか、チゲ的なものか。このスープ皿にあえて今サラダを盛ってみたらどんな感じになるか……と想像するのがやっぱり唯一無二の面白さなんです、自分にとっては。
自分で料理を考えながらスタイリングしていくとき、「異国と異国を合わせる」というのがテーマのひとつ。そうですね、例えば……「フランス人がインド料理を作ったらどうなるだろう?」、または「フランスに住んでる日本人が現地のお皿に和食を盛りつけたら?」みたいな感じで考えていく。自分にお題を出して、ひとりで大喜利をやってるような感覚というか(笑)。そうしてお題を自分に出して考え続けていると「その手があったか!」みたいな発想が出てくること、あるんです。
外苑前にある「西洋民芸の店 グランピエ」も好きなお店ですね。柄が印象的な青いボウルはスペインのもの。見てるうちに、僕はサッポロ一番塩らーめんを盛りたくなったんですよ。レモンの輪切りをのせて、オリーブオイルと黒こしょうをかけて。やっぱりぴったり合って、おいしくて。もちろんサラダを盛ってもいいし、うどんなんかも意外ときれいにハマる。
世界各国のうつわや料理道具に囲まれていると、いろんなインスピレーションをもらえます。使っていくことでそれぞれの食文化の意味にも気づけることが多い。ナイフとフォークを使う国のうつわはそれなりの重さがないと、使っていて動いてしまう。対して日本のうつわは口や鼻に近づける行為が多いからとても軽く作られる。韓国の汁物は直接飲まず、スッカラを使って飲みますよね。だからぐつぐつと熱く煮て作ることができる。
様々なものを身近に置きつつ、各国のうつわを取り混ぜて「この手もあるな!」と考えながら、僕なりの大喜利スタイリングを楽しんでいきたいです。
おまけ 健康を考えたうつわ選び
小さいうつわを買い足していくのは、個人的なおすすめ。健康のために多品目を食べるようにしているんですが、あえて小皿に盛っています。全部作ろうとせず、例えば納豆、漬物、刺身に昨日のあまり物なんて構成でいい。洗い物は増えてしまうけど、箸の動くところをたくさん作ることで早食いせずにすみ、消化にやさしい食べ方ができるんです。
白央篤司
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」がメインテーマ。主な著書に、日本各地に暮らす18人のごく日常の鍋とその人生を追った『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)がある。
https://www.instagram.com/hakuo416/
Column
うつわのある暮らし
食を彩る素敵なうつわとともに日々を過ごす。憧れるけどなにから始めたら? フードライターの白央篤司さんが、「うつわのある暮らし」を始めるヒントを探りに、うつわの専門家を訪ねました。
2024.04.25(木)
文=白央篤司
撮影=平松市聖