光源氏のモデルについては在原業平をはじめ諸説あり、藤原道長もその一人だが、道長は光源氏のように左遷された過去がない。そういう意味で光源氏に近いのは、道長の父・兼家だという。その兼家の妻が書いたのが『蜻蛉日記』だ。
「日記といっても男性の日記のような出来事の記録ではなく、物語的に脚色もされていて、次々と新しい女のもとへ通う兼家のことを妻の側から書いている。ハッピーエンドのおとぎ話ではない大人のリアルを描いたのが革命的で、『源氏物語』も影響を受けています」
紫式部と藤原道長が恋人関係だという説がある。本書では『紫式部日記』や和歌のやりとりからその関係を探る。
「恋人であったなら、紫式部も召人の女房だということになりますね。『源氏物語』では、紫の上が亡くなったあと光源氏はどの女性にも興味を失ったとありますが、紫の上に仕えていた中将の君はずっと彼のそばにいるんです。女房という立場ゆえ光源氏の相手として重視されてきませんでしたが、光源氏のそばに最後までいたのは召人の女房。これが、紫式部の答えなのだと思います」
きむらさえこ/津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科教授。『恋する物語のホモセクシュアリティ――宮廷社会と権力』『乳房はだれのものか――日本中世物語にみる性と権力』がともに第4回女性史学賞受賞。他の著書に『平安貴族サバイバル』等。
紫式部と男たち (文春新書)
定価 990円(税込)
文藝春秋
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2024.02.17(土)
文=「週刊文春」編集部