歴史改変の導入によって描けたことがもう一つある。革命の混乱に乗じ、日本軍はシベリア極東部に侵攻してくる。この行為の不誠実さは、第二次世界大戦末期に満州国を襲ったソ連軍とまったく同じである。立場が変われば日本もソ連と同じ非人道的行為に出るということだ。この展開により、日本もまた個人を圧殺する国家の一つであるという見解が明示されるのである。なんという徹底ぶりか。

 国家という巨大なものに抗い続ける男の肖像を本作で佐々木は描いた。それはいまだ現在の姿を写し取るための素描さえ確立できていない同時代人への叱咤激励のようにも感じられる。このように生きる男を私は描いた。あなたはどうする。

 佐々木のそんな声が聞こえる。

帝国の弔砲 (文春文庫 さ 43-8)

定価 1,133円(税込)
文藝春秋
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2024.01.02(火)
文=杉江 松恋(書評家)