『涼宮ハルヒの憂鬱』(朝比奈みくる役)などで知られる声優の後藤邑子さん。国指定の難病を抱えながら活動を続け、この9月には初めての著書を刊行、11月には京都アニメーション主催の音楽フェスにも出演しました。
そんな後藤さんが自身のキャリアと闘病を振り返った著書『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も』より、緊急入院から突然の無期限休業を発表した2012年当時について、一部を抜粋して転載します。(全2回の後篇。前篇を読む)
「吐けば楽になる」ことはありませんでした。
治療法が確立していたことと、「だいたい半年くらいで退院できる」と医師から言われたことで、闘病自体には悲観的な気持ちはありませんでした。
「ステロイドを3日間、連続して点滴します。同時にシクロフォスファミド(エンドキサン)という免疫抑制剤も点滴で入れていきます。これは月に1回、6カ月続けます。この治療が終わったら一段落できますので」
最短なら2カ月半で通院治療に切り替えることができる、と医師から説明をもらえた私は、この治療を終えたら声優業に戻るんだ、と当然のように思っていました。
私が受けたこの治療は、ステロイドパルス療法とエンドキサンパルス療法といいます。どちらも身体の抵抗力を低下させるので、お見舞いの生花は禁止され、病院食は制限食になりました。
ステロイドパルスは副作用が強いと説明を受けていましたが、体感的に、すぐに副作用を感じたのはエンドキサンパルスでした。
シクロフォスファミドという薬剤は、乳がんの人などに使われることが多い薬だそうです。なので副作用も、個人差はありますが、いわゆる抗がん剤のメジャーな副作用があります。この薬を使った日と翌日は、私は吐き気がおさまらなくなりました。
胃の中のものを出しきっても吐き気は続きます。胃液だけをもどし続けるので、「吐けば楽になる」ことはありませんでした。
エンドキサン点滴をやった後はしばらく、普通の食事がとれなくなりました。なぜかメロン味のゼリーしか食べられなくなりました。体力が削られていく実感がありました。この半年間で一生分吐いた気がします。
この期間は髪の毛も、手指の爪もなくなりました。爪は最初はふにゃふにゃと弱くなっていき、そのうちめくれてきて取れてしまいます。新しい爪も生えてこないので不便でした。痛いことよりも物がつかめないことの不便さにまいりました。
2023.12.02(土)
著者=後藤邑子