「和食、ラーメン、スシ」人気が続く、ロンドンの食シーン。文化が熟すにつれて、本格派レストランの数も急増中で、「Omakase」という言葉も市民権を得つつあります。
ラグジュアリーホテルに、2023年7月にオープンした東京発の名店の、心ときめく味の組曲をレポートします。
日本風のおもてなしもそのままに一級の江戸前鮨を味わえる隠れ家
ロンドンのメイフェア地区のハイドパーク寄りは、大型の高級ホテルが立ち並ぶエリア。そのなかで、全45室と比較的こぢんまりとしたラグジュアリーホテルが「45 Park Lane」。向かいに立つ同系列の老舗、ザ・ドーチェスターの、遊び心に富んだ娘のような存在です。
このホテルのセカンドフロアに、ひっそりと広がる和の空間が「鮨かねさか」。2018年からミシュラン2つ星を保持する東京の名店の、欧州進出一号店です。日本からの食材と、英国、および世界の一級品を厳選して使用し、おまかせベースの江戸前寿司を提供しています。
最大20品のおまかせコースに合わせて、日本酒のペアリングをオーダーすることも可能。ペアリングでは、お料理に合わせてソムリエが選んだ約6種類の酒を楽しむことができます。その多くは、英国ではここでしか味わえないレアな逸品。
もちろん、ペアリングの形式にこだわらず、それぞれのペースに合わせてのドリンクの紹介もしてくれるので安心。日本酒のほか、ワインやビール、日本産のウイスキーのセレクションにも、名店ならではのこだわりが満ちています。
見目麗しい食べる芸術品、おまかせ19品を全公開
9席並んだメインのカウンター席に着席すると、ヘッドシェフの和田浩崇(わだひろたか)さんからアレルギーや嫌いなものをたずねられるも、「なんでも食べます、お任せします」と即答。
いよいよ、おまかせ組曲の幕開けです。食前酒は、山梨の酒蔵、七賢の山ノ霞。フルーティーなスパークリング日本酒です。
1品めは、お椀の蓋を取る前からすでに、ふわりと薫るマツタケとカニの茶碗蒸し。カニはコーンウォール産のものを使用しているとのこと。
英国南西端に位置するコーンウォールは、三方を大西洋に囲まれているため、特殊な気候とそれがもたらすバラエティに富んだ魚介が漁れることでも知られています。また、「コーンウォールには、活け締めができる漁師さんも多いのです」と和田さん。
2品目、3品目は、マグロ。といっても、並みのマグロではなく、序盤からすでに、大トロと中トロの登場です。こちらは、この季節にとれるカナダ産の天然マグロとのこと。
軽く醤油をつけてあり、そのままいただきます。脂がのって濃厚なのにベタつかず、意外にも後味はサッパリ。ふんわりとしたシャリは、酢飯であることを忘れてしまうほどマイルドです。
続いて、まな板の上に載ったのは、アワビとあん肝でした。目の前でスライスされ、皿に盛られたその美しい色合いにうっとり。
コリコリという定番の歯ごたえとはほど遠い、もっちりと弾力がありながら歯切れもやわらかなアワビはオーストラリア産、まさに海のフォアグラといった旨味がいっぱいのあん肝はコーンウォール産とのこと。
そして、ここでサーブされた日本酒が、佐賀の光栄菊。柑橘が香るうすにごりの生酒で、食事の食感と相性抜群です。
5品目は、スズキです。すりおろした柚子の皮で香りづけされており、とっても爽やか。スズキもコーンウォール産です。
6品目には、同じくコーンウォール産のイカが。こちらにはつやつやと輝きを放つキャビアが添えられています。キャビアの缶には、「Kaviari Paris Beluga Imperial」の文字。
和田さんによると「世界最高級ではなく、世界最高のキャビアです。こちら(欧州)の会社のものですが、産地は中国といわれています」とのこと。ソフトなイカとキャビアの食感が引き立て合う組み合わせです。
さて、お次に続くのがスコットランド産のホタテをパリパリの海苔にはさんだ磯辺焼き。アツアツのホタテがまるで餅のような食感で、楽しいサプライズです。これにて前半戦の7品が終了。中盤戦へと突入します。
2023.10.23(月)
文・撮影=安田 和代(KRess Europe)