駆除に偏っても、保護に偏ってもダメ
東出 これは又聞きなんですが、ある猟師さんが箱罠でイノシシを取ろうとしてクマの錯誤捕獲があった。行政に電話して放獣したいって言ったら、市役所の方が来て確認して、次に県の方が来て確認して、その後獣医さんを呼ぶことになって……。
結局、麻酔を打って、クマを放獣するまで猟師さんが立ち会っていたら、三日かかっちゃったと。ただでさえ時間がかかるのに、そこに自治体の事務停滞が起こってしまうと、猟師さんの仕事にも影響が出てきます。
米田 駆除に偏っても、保護に偏ってもダメ。やはりある程度のところで個体数の増加を止めないと、駆除が追い付かない事態になり、結果的に人身事故が起こりかねない。千葉で自然動物園から脱走したキョンが大量に増えたが、あれも時期を逃したことで止め損ねてしまった。
東出 シカは増えすぎて問題になっていますね。
米田 しかし頭数を管理するにしても、肝心のハンターがいない。兵庫県は2016年に制限を設けた上で20年ぶりにクマの狩猟を解禁したが、ハンターが老齢化していて結局4頭しか取れなかった。
今後はハンターの育成がポイントに
東出 コロナ禍に入ってから、東京では狩猟免許取得試験の申込者数が定員の3倍から4倍になったと聞きましたが、他の関東の県では一概にそうではないようです。
それに単に狩猟が好き、撃つのが好きというハンターが増えても、クマの違法狩猟が増える危険性もあります。悲しいことに違法狩猟は想像以上に多く行われていて、彼らは毛皮や肉のためじゃなく、ただ誉れのためだけにクマを殺している。
米田 ハンターの育成をきちんとやっていかないといけない。俺は昔、鈴木辰五郎や鈴木松治、高堰喜代志といった伝説のマタギを取材して山を一緒に歩かせてもらったんだけど、彼らは本当に素晴らしい山人だった。何をするにも山の理があって、とても美しかった。
2023.10.01(日)
文=「週刊文春」編集部