iPhoneも2007年にアメリカで発売された当初、日本では「ガラケーのほうが機能が豊富」「ツメの長い女性にタッチパネル操作は不向き」と散々であった。
2008年、日本国内でソフトバンクがiPhoneを独占的に扱った時も、発売当初は全く売れず、ソフトバンクがiPhoneを実質ゼロ円でばら撒くようになり、アップルが毎年、新製品を出すことで、ようやく普及するようになった。
アップルの腕時計型コンピューターである「Apple Watch」も発売当初は全く売れなかった。しかし、毎年のように新製品を出すことで、少しずつユーザーが増え、いまではアップルは世界で最も販売台数を稼ぐ時計メーカーとなった。
Apple Vision Proも発売当初は日本円で49万円ということで、新製品が出れば片っ端から買うアップルファンと、アプリの開発者ぐらいにしか売れないだろう。
ただ、アップルはApple Vision Proのことを「Appleが開発した初の空間コンピューター」として発表している。つまり、第2、第3弾が用意されているということだ。
今後はチップのAI処理能力が上がり、カメラなどの部材を減らすことができるようになるだろう。そうすれば、コストダウンにつながり、販売価格も下がってくるはずだ。
「こんな大きな機械を顔につけて生活するなんて考えられない」という気持ちも分かるけど…
Apple Vision ProはWebの記事や動画を見ても、その凄さの1%も伝わっていない。自分も原稿を書いていて、その魅力を読者に全く伝えられないことに、本当に申し訳なく思っている。
そのため、一般的に「こんな大きな機械を顔につけて生活するなんて考えられない」という批判的な声が上がるのも理解できる。自分もこれまで様々なVRゴーグルを被ってきたが、装着感や操作性などにおいて「こりゃ、普及するのは困難だな」と悲観的に見ていたほどだ。
しかし、Apple Vision Proを装着してからは考え方が一変した。Apple Vision Proと、いま世の中に発売されているVRゴーグルを比較するのは意味がない。アップルはVRゴーグルの世界でナンバーワンを獲ろうと思っているのではなく、コンピューターそのものを変えようとしているのだ。
実際、Apple Vision Proは装着すれば「新しい時代のコンピューターが来た」と誰もが確信が持てるのは間違いない。ただ、その実力が、世間に評価されるのには数年かかるだろうし、アップルもApple Vision Proは数年かけて取り組むプロジェクトだと十分、理解しているはずだ。
2023.06.27(火)
文=石川 温