少子化対策という言葉に覚える嫌悪感

内田 ところで14歳で子どもを海外に一人旅に出すなんて、お母さまは勇気ある決断をされましたよね。親には子どもを見守る勇気が必要だと常々思います。

ヤマザキ 親になるというのは幸せと喜びだけがもたらされるわけではありません。大変な思いもたくさんします。子どもは子どもで、成長の過程で辛い思いもするでしょう。でも、親の役割はそれに怯まないことだと思います。子育てには成熟と知性が必要だし、単純に国力として人間の頭数だけ増やせばいいというようなものではないですよね。

内田 だから私は少子化対策という言葉に嫌悪感を覚えるんです。私自身は3人の子どもを産んでよかったと心から思いますが、産むというのは本当に大きな決断だからこそ、女性たちの自己決定権が何よりも守られなければならない。

 アメリカでは昨年、人工妊娠中絶の権利を守ってきた最高裁判決が覆され、13の州で中絶の権利が奪われてしまいました。これは大問題で、現に例えば子宮外妊娠した女性の命が脅かされる事例も出てきている。一方、中絶の権利が守られている日本では女性たちの自己決定権が守られているかというと、疑問です。今回承認された経口中絶薬の認可も諸外国から30年遅れ。経口避妊薬(ピル)の承認も40年以上遅れたわけで。

ヤマザキ 命を一つ増やすということについて、もっと皆真剣に考えるべきだと思うんです。私は妊娠がわかったときは、自分が大変な時期を生きていたこともあり、毎日考え込みました。でも、右も左もわからない異国で、散々考え抜いた挙句に決めた出産はとても大きな意味があったと思っています。私が危惧するのは、「自分の人生を豊かにするために子どもを産みたい」という解釈です。そんな自分本位の姿勢は、子どもの一人の人間としての人格の束縛を意味します。

2023.06.18(日)
Photograph=Wataru Sato

CREA 2023年夏号
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