フリーの道を選んだわけ
やりがいもあって充実していたのですが、その仕事を続けるうちに、コーディネートする側ではなくて、自分自身が植物のあれこれを伝える側に立ちたいという気持ちが強くなっていきました。ちょうど会社の組織も変わる頃だったので、そろそろ頃合いかなと思ってフリーランスという道を選んだ、という流れです。
──鈴木さんの「植物観察会」に参加するのはマニアックな方が多いのですか?
鈴木 いや、全然です。むしろ最近はクリエイターやアーティストなど、僕にとっては思いもよらない分野で仕事をされている方の参加も増えてきました。
最初に国分寺の情報感度が高い人が集まるカフェで告知させてもらったおかげで、30〜40代のふつうに働いている人が多く集まったんです。その後、参加してくれた方から「面白いから自分の家の近くでもやってほしい」と声をかけていただき、会が徐々に広がっていきました。
最近、表現者やパフォーマーの参加者が増えているのですが、「自然からインスピレーションを得られる」というのが参加の理由としてが多いようです。自分ではまったく想定していなかった層の方が、思いもつかなった理由で参加してくださるので、それも面白いなあと思って続けています。
──2月に出版された『まちなか植物観察のススメ』も、これまで植物に興味のなかった方たちに植物に関心を持つきっかけを届けたいという思いで書かれたのでしょうか。
鈴木 実はこの本は、1年間ぼくの観察会に参加してくれた編集者の方の発案から生まれたんです。ずっと身分を隠して観察会に参加し続けてくれて、1年経った時に「実は自分は出版社の社員で、観察会の本を作りたいと思っている」と打ち明けられて……。1年間毎月参加してくれていた方にそこまで言われたら、断れないじゃないですか(笑)。
でも、図鑑ページや、植物見極めのポイント、観察会では端折ってしまうけれど実は植物を理解するうえでとても大事な話なども詳しく載せることができたので、結果的にすごく満足した本ができて感謝しています。
──大事なのに観察会ではしない話もあるのですね。それは、長くなるからですか?
鈴木 難しくてつまらないからです(笑)。たとえば、アセビという木は、幹が細くて背も低いので、草か木か判断に迷います。一般的には、木というと見上げる高さまで成長するものをイメージしますが、それは「高木(こうぼく)」という樹木の区分で、木の高さによって、「亜高木(あこうぼく)」「低木」と区分が分かれています。……という話を歩きながら延々としても面白くないですよね(笑)。でも、これを知っておくと、「アセビは木なんだな」ということが分かるので、観察が楽しくなります。そんな話を書籍では「コラム」としてまとめられたので、よかったなと思います。
まあ、この本でいちばん恩恵を受けるのは、ぼくの年間観察会に参加してくれている参加者さんだと思いますけど……。
2023.06.01(木)
文=相澤洋美