その悲しみを話せる相手がいるか
何と言っても制度を通じて、ペットロスが職場で「公認」されていることは大きい。
「日頃から自分のペットの話を職場で話している社員も多いので、例えば『(ペットの)体調が悪いんです』と言ったら、上司や同僚から『もし休みが必要だったら、とって構いませんよ』と言われたという声もありました。亡くなってしまってからも、ある程度、その悲しみを職場で共有してくれる人がいることに救われるようです」
同社では、ペットロスをこじらせて出社できなくなるようなケースは報告されていないという。納得のいく「最期のお別れ」ができるかどうかで、ペットロスの重さが変わってくるということについては第5章で述べた通りだが、たとえペット休暇はなくとも「いざとなったら休む」ことの効用は、知っておいてもいいかもしれない。
ペットが亡くなった後で、その悲しみを話せる相手がいるかどうか。
ペットロスの「第一波」の衝撃を乗り越える方法は、ほぼそれがすべてと言っていい。
「どうすればペットロスから回復できるのか?」という質問に対して、私が取材したペットロスの専門家は誰もが「その悲しみを誰かに話すことが一番大事」と口を揃えた。
問題は、悲しみを明かす「誰か」を見つけるのがなかなか難しいということだ。「ペットを亡くして悲しいなんて、話された方だって迷惑だろう」と考えてしまう人もいるだろう。だからこそ前出の濱野氏や横山氏のような「ペットロスの話を聞いてくれるプロ」がいる、ということは知っておいて損はない。
一方で横山氏は、こう指摘した。
「本当は精神科医やカウンセラーでなくとも、他者に話すことでペットロスを乗り越えるきっかけは掴めるはず。注意すべきは、ペットに関わる人──獣医師や看護師、あるいはペット仲間──であっても、悲しみ方は人それぞれ違うということ。だから話をする人は、相手に自分の悲しみが伝わらない、とイラついてはいけないし、逆に話を聞く人は、すぐに『こうすれば』とか相手に指摘したり、原因を見つけようとせずに、ただ聞くことが大事です」
アンケートの回答を見ていると、実際にペットを亡くした経験のある人たちに話すことが大きな支えになったという声が少なくなかった。前出のユウコさんは、ペットロス経験のある3人の友人に連絡をとり、自身が抱えている辛さを共有してもらっている。
〈骨壺を抱いて寝たというようなそれぞれの体験を聞くことで、自分の辛さが理解されたように感じましたし、自分だけではないということがわかり、とても救われました〉
勤め先の花屋で看板犬まで務めていた柴犬の「みゆう」を17歳で亡くしたみゆきさんは、〈同じ経験をされた方に打ち明け、話を聞いてもらいました。また職場で可愛がってくれていた人が一緒に泣いてくれ、随分救われたと思います〉。
2023.05.26(金)
文=伊藤秀倫