批評というと文芸誌や批評誌があって、批評家という肩書きの人がやるもの、という固定観念が強いのかもしれません。私は、一般的に批評だと思われているものへの批評を自分の実践でしたいとも考えています。その発想は、90年代前半にはソフィア・コッポラが「親の七光りだろう」という見られ方をしていたことに対して、自分にリミットをかけず、どんどん外へ出てやりたいことをやっていくんだ、という姿勢をとったことと似ているのかもしれません。ソフィアは95年頃は写真を撮っていて、その先の98年以降は自分なりのやり方で映画を制作し、発表しはじめました。

「この人は無力に違いない」という社会の見方というものは本当に変わっていきます。実際、父親のフランシス・フォード・コッポラよりソフィア・コッポラのことを知っている人が、今の時代では当然多くいるでしょう。1988年、わたしが資生堂に入社した年は、吉本ばななさんが『キッチン』という小説を刊行されて、その画期的な作風で大いに話題になっていましたが、「将来は、お父さんの吉本隆明さんを知らなくて、ばななさんのことを知っている若い人たちが現れるのだろうか?」ということを、想像しにくい未来として編集界隈の人たちが話していたことを、私は覚えています。女性で、あたらしいやり方で大きなものをなしとげていく人たちは、キャリアの最初に「この人は無力に違いない」という言説を、根拠もなく受けがちだと思います。

 現在はファッション研究が私の活動のメインになりつつあるのですが、海外の若手研究者たちが、私がこれまでやってきたことに興味や共感を強く示してくれています。2020年~2021年にロンドン芸術大学のCentral Saint Martinsの修士課程でExhibition Studiesを学んだ後、これからもそうした人たちと、国境を超えて一緒にやっていけることがあるだろうと思っていて、今後はそれを楽しみにしています。

2023.05.01(月)
文=「文春オンライン」編集部