日本でも有数の山岳リゾート、上高地。数少ない宿泊施設のなかでも、一度は泊まってみたいと思うのが、赤い三角屋根の「上高地帝国ホテル」だ。

 昨年11月中旬からの長い冬期休業を経て、2023年4月26日(水)に今年度の営業を再開するこのホテルで、居心地よく過ごしながらも地球と環境について思いを馳せる旅をしてみたい。


90年の歴史を誇る日本初の本格的山岳リゾートホテル

 「上高地帝国ホテル」は、1933年に日本で初めての本格的な山岳リゾートホテルとして誕生。スイス・アルプスの山小屋のような愛らしい三角屋根や、木材をふんだんに使ったぬくもりのある雰囲気はずっと変わらない。

 上高地は標高1,500メートルほど。広大な中部山岳国立公園の中にあり、屏風のように切り立つ穂高連峰を眺め、梓川の清流、そして独特の高山植物などを見つけることもできる。まさに大自然とともにある場所だ。

 自然を大切にするというポリシーは歴史が長く、明治時代から高山植物の採取が禁止されるなどに始まり、現在ではマイカー規制が敷かれ、大切に保護されている。

 なかでも「上高地帝国ホテル」は、先日、SDGsを実践する宿泊施設を認定する「観光品質認証協会の」認証制度「サクラクオリティグリーン」で最高評価を得たばかりで、観光とSDGsを結ぶオピニオンリーダー的存在だ。

 この美しいホテルにたどり着くころには、環境への想いがいかに深く、取り組みが必然であるかがよくわかる。息を飲むほど雄大な風景を眺め、すがすがしい空気を吸い込めば、誰もが「この環境をいつまでも守りたい」という気持ちになるに違いない。

環境と建物を保全するための光景があちこちに

 「上高地帝国ホテル」は、2002年に「第11回BELCA賞ロングライフ部門」を受賞している。これは自然環境へのメンテナンス対策、長年の適切な保存などが評価される建築にまつわる賞。

 上の写真は栗の木の丸太を使った床が乾燥して割れないように水をやる風景。また、下の写真は、柵などの丸太を小槌で叩き、その音で判断し、修繕の必要性をこまめに確かめる。このような人間の感覚と手仕事で守られているところが、ベルカ賞にもつながり、施設を大切にする様子に、ゲストも眺めていて嬉しくなる。

アメニティのプラスチック利用量を9割以上削減

 2022年に包材を含め、アメニティを一新。脱プラスチックを掲げ、環境負担の少ない竹や木、生分解性プラスチック素材に切り替えた。デザイン性も高く、使い心地もいいため、ぜひ持ち帰って使い続けてほしい。

なによりのごちそうは、全館で使われる水

 最近では蛇口から出る水を飲むことも少なくなった人も多いだろうが、このホテルでは必ず飲んでほしいのがその水だ。

 水源は、上高地の中心を流れる梓川に注ぎ込む、わずか300メートルの清水川。地下水が山から湧き出し、束の間川となり、梓川に合流する。この水を水源の始点から、電力を使わない方法で安全にホテルまで引き入れることで、冷やさなくてもいつも8度ほどの冷たくておいしい水を使うことができる。もちろん、厨房では野菜を洗い、煮炊きにも使われて料理をいっそうおいしくし、お風呂やシャワーからもこの水がふんだんに出てくるので、肌にも髪にもうれしい。

2023.04.22(土)
文=CREA編集部