どんどん進んでいくクライアントとマネージャー陣との名刺交換、もう次の瞬間には最初のアジェンダ(議事事項)に関する議論がはじまる。そう思った時、私は両眼をみはり、全集中“議事”の呼吸で、すべての神経を両耳へと集中させた──。と、その時、集中させていた右耳が「ドンッ」という音を捉えた。
隣に座る女性先輩社員がものすごい形相をしながらこちらを睨み、ボールペンを机に叩きつけていたのである。
「(ありがとうございますございま)ス────────」
吐息となんら変わらない音に成り果てたお礼を添えつつ、ボールペンを手に取り、私は社会人としてはじめての議事録をとりはじめたのだった。
会議が終わった時、既に時計は定時である18時を過ぎていた。
クライアントのオフィスからプロジェクトルームへと戻る途中、先輩たちは1杯目のビールが200円になるモダン居酒屋で、簡単な歓迎会を開いてくれた。軽いつまみと各自1杯だけビールを頼み、それを飲み干し、プロジェクトルームへ戻った時には既に21時を過ぎていた。颯爽と鞄を持って退社しようとした私に、ヤマウチは「議事録、何時にできる?」と問いかけた。
振り向くと、先輩社員たちは誰一人として帰る素振りを見せず、みな黙々と業務を再開し、先ほどの会議を振り返りながら、次の一手を議論しはじめていたのだ。
「議事録は、明日の夜までに提出しようと思っていたのですが、遅いでしょうか……」
と、酒の入ったぼんやりした頭で、私は恐る恐るヤマウチに聞いた。はじめての会議の緊張が酔いを加速させていたらしい。
私が言葉を言い終えるよりも早く、「遅い!」という言葉が無慈悲にも返ってきたのだった。
#2へ続く
2023.04.20(木)