その日、僕は昼過ぎまで寝ていた。コンビニで買った菓子パンを食べながらミクシィを開き、高校の友人のなかはらがキモい日記を書いていたので、同じく友人のかわぐちに「中原がキモい日記を書いてるよ」というメールを送った。そのまま河口とヴェネチアン・スネアズやスクエアプッシャーの新譜の話をした。河口からメールが返ってこなくなったので横になった。横になりながら、もし「この世でもっとも怖いものはなんですか」という質問をされたらなんて答えようか、と考えていた。僕はときどき、そういうことを妄想して時間をつぶす。僕は架空の事務所の架空の会議室にいて、架空のインタビュアーが僕に質問をしていた。
 すべての人類へ一斉にアンケートをとったとして、確実にランクインするのは「死」だろう——架空のインタビューに対して、僕はまずそう考えた。たしかに「死」は怖い。とはいえ、「死」を怖がって生きているというのも、いかにもみっともない。たとえばロキノンの二万字インタビューで、ミッシェル・ガン・エレファントがそんなことを口にするだろうか。僕は自分の心の中で飼っているチバユウスケに聞いてみたところ、チバユウスケは首を横に振った。同じく心の中で飼っているソクラテスは「死は祝福である」と口にした。チバユウスケとソクラテスの二人に相談しただけでは偏りがあると思ったので、仕方なくダンブルドア校長に聞くことにした。ダンブルドアが「ハリー、死は次なる大いなる冒険にすぎないのじゃ」と言ったあたりで、島内から「今暇? 渋谷で飲まない?」というメールが来た。

 そこまで語ると、島内は「暇だな」と口にした。「もう少し生産性のあることをしているかと思ってたわ」
「これでも、『何もしていない』にならない?」
「ならないね。『インタビューを受ける妄想をしていた』になる」
 僕はふと、「お前は、架空のインタビューを受けたりしないの?」と聞いた。
「するわけないじゃん。そんなことするの、お前だけだよ」
「そっかあ」
「ちなみに、なんなの?」と島内が聞いてきた。
「え?」
「もっとも怖いもの」
 僕は、そのとき自分がどう答えたのか、覚えていない。

2023.02.10(金)
文=小川 哲