香港に通い詰めるようになって四半世紀以上。レストランのプロデュースも手がける美食家のカメラマン菊地和男さんは香港で何を食べているのか? 今回は菊地さんの定番料理と言えるメニューのベスト10を挙げてもらった。庶民の味から高級料理まで、ありきたりのガイドブックとは違う、奥深い香港の食の世界にご案内します。

 米粒のひとつひとつが花開いているかのようにトロトロになるまで煮込まれた香港風の粥は、日本の粥とは一線を画す。

 日本では時として病人食の代表格として扱われる粥だが、香港人にとっては、ごく日常的なもの。朝だけでなく、昼でも夜でも、とりわけおいしさに定評のある香港の粥専門店は1日中混んでいる。バラエティ豊かなトッピングの組み合わせ方次第で、朝食にも、昼食にも、夕食にも、そして間食にもなる粥は、香港人の食生活に欠かせない存在だ。

 おいしいご馳走を目の前にして、ついつい飲み過ぎてしまったというような翌朝は、ホテルのダイニングに魅力的な朝食のビュッフェが待っていようが、私の足は自然と外へと向かう。丼のふちまでなみなみと注がれた熱々の粥を、舌をやけどしそうになりながらフーフーとレンゲで食べ進めていくうちに、汗をかき、徐々にカラダがリセットされていく感じがする。

 元気な時なら、今日はトッピングを何にしようか……と考えるのも、粥を食べる楽しみのひとつだが、思考能力に欠けるそんな朝は決まって、「ピータンと塩豚の粥」だ。鶏だしや干し貝柱等の味を含んだ粥をすする合間に、豚の赤身肉を塩漬けにした塩豚の塩気が口中にアクセントを与える。熱々の粥の中で温まったぬくいピータンは、冷たい時とは違う発酵臭を放ち、それがまた不思議とうまいのだ。

 するするとカラダの中に抵抗なく入っていく粥の合間のそんな刺激が、私を目覚めさせていく。

鏞記酒家
所在地 中環威靈頓街32-40號
URL www.yungkee.com.hk

菊地和男
1950年東京生まれ。日本広告写真家協会会員。世界各国の食と文化をテーマに撮影・執筆を行うほかレストランのプロデュースにも関わる。1969年以来、香港には度々渡航。著書に『 香港うまっ!食大全』(新潮社)、『中国茶入門』(講談社)、『茶人と巡る台湾の旅』(河出書房新社)、『ダライ・ラマの般若心経』(共著/ジェネオン エンタテインメント)など多数。

2013.11.14(木)