香港に通い詰めるようになって四半世紀以上。レストランのプロデュースも手がける美食家のカメラマン菊地和男さんは香港で何を食べているのか? 今回は菊地さんの定番料理と言えるメニューのベスト10を挙げてもらった。庶民の味から高級料理まで、ありきたりのガイドブックとは違う、奥深い香港の食の世界にご案内します。
悠に四半世紀は超えてしまった毎年の香港通い。
1人であろうと、大人数であろうと、滞在中に香港のおいしさを堪能する手段はいくつもあるが、1人飯だとあきらめざるを得ないものもある。鮮魚の姿蒸しである。
広東料理の海鮮メニューの中では定番中の定番。中でもハタ類を蒸したものは、シンプルながら絶品であると思う。だから、4~5人が集まれば、欠かせない1品にもなっている。シンプルであるがゆえ、そのおいしさは料理人の腕にかかっている。
この料理は、蒸した後に、醤油ダレと熱々のピーナッツ油を回しかけて仕上げるが、一流の料理人はこの時にどの程度火が通るかまで計算して、蒸し上がりの時間を見極め、最高の状態でテーブルに供する。たっぷり添えられたネギとショウガと一緒に口にすれば、おいしさの頂点になるよう火入れされた白身魚の身の甘さと、熱い油で香ばしさを加えた醤油ダレと、ネギとショウガの香味が一体化して至高の味わいを醸し出す。
が、この料理の一番のお楽しみは、実は白飯なのである。
酒を嗜むゆえ、料理は肴であり、ご飯のおかずとして楽しむことは少ない。しかしながら、こればかりは例外だ。ほぼ魚の身を食べつくした後は、骨の周りをしゃぶり、遠慮の塊で残っている頭の部分の目玉と唇の楽しい攻防戦が始まる。そして、皿に残ったタレをかけて、白飯をワシワシと食らう。
「んまぁ~」
酒の途中に飯。このルール違反がうまいのだ。
福臨門魚翅海鮮酒家
所在地 香港灣仔莊士敦道43-45號
九龍尖沙咀金巴利道53-59號
URL www.fooklammoon-grp.com
菊地和男
1950年東京生まれ。日本広告写真家協会会員。世界各国の食と文化をテーマに撮影・執筆を行うほかレストランのプロデュースにも関わる。1969年以来、香港には度々渡航。著書に『 香港うまっ!食大全』(新潮社)、『中国茶入門』(講談社)、『茶人と巡る台湾の旅』(河出書房新社)、『ダライ・ラマの般若心経』(共著/ジェネオン エンタテインメント)など多数。
2013.11.22(金)