と美智子さまのほうを向いておっしゃる。
「準決勝でしたね。米国人の少年とペアでしたよね」
その時のお気持ちを美智子さまに伺うと…
一九五七年八月、軽井沢のテニスコートでトーナメント大会が開かれた。陛下は早大生の石塚研二氏と組み、美智子さまはボビー・ドイル少年と組んで対戦した。
「ちょっとやってみたら、この人たちは下手だから簡単に勝てる、楽勝だなと思ったんですよ。始まってからも大して強くないと思いながら球を返していたんですけれど、ゲームが進んでくると意外に強くて接戦になったんです。それで真剣になってやりました」
陛下がとても楽しそうに話すことに驚いた。エピソードは知っていたが、そのままうかがっていた。
陛下は美智子さまに「その時あなたはどういう気持ちだったんですか」と聞く。すると美智子さまは「私はもう殿下とテニスをすると言われてすごく緊張していましたよ」と答えた〉
当時、上皇陛下は23歳、美智子さまは22歳。ゲームは意外にも美智子さまのペアが勝ちをおさめ、「これはもう殿下がお勝ちになるに決まっている」といって途中で帰ってしまった小泉信三(東宮御教育常時参与)らを驚かせた。
これが巷間知られている真実だが、両陛下が語られたのは、ちょっと異なる“おふたりだけの物語”だった。
〈「どちらが勝たれたのでしょう」とうかがうと、美智子さまが「陛下の方が勝ったんです」と言い、陛下の方も「やっと勝った」ということをおっしゃった。資料によれば、「4―6、7―5、6―1」で美智子さまとドイル少年のペアが勝ったことになっているが、お二人の間では、陛下のほうが勝ったことにしているのかもしれない。とにかく陛下が楽しげに思い出を語られる姿が印象に残った〉
上皇陛下と美智子さまが語った内容は実に豊富だ。19歳の時参列したエリザベス女王戴冠式や、「慈父のよう」だったチャーチル首相の思い出、満洲事変と石原莞爾への強い関心、ご自身の病気のことなどについて率直に語られ、平成の天皇陛下を知るうえで第一級の資料となりうるものだ。
保阪氏執筆の「平成の天皇皇后両陛下大いに語る」は、12月9日発売の「文藝春秋」2023年1月号に25頁にわたって掲載される(「文藝春秋 電子版」では12月8日に公開)。
2022.12.18(日)
文=「文藝春秋」編集部