この記事の連載
- 『この父ありて』刊行記念対談 #1
- 『この父ありて』刊行記念対談 #2
私も家族仲が円満とは言えなくて…
酒井 仰る通り、身内のことを書くのは本当に難しいです。私も家族仲が円満とは言えなくて、ある時にどうしても書かずにはいられないと思って書きましたが、書き終えても、思っていたようには気持ちの整理はつきませんでした。後から後から罪悪感が湧いてきて。
梯 酒井さんはご自分以外の家族が亡くなられて、今はお一人ですよね? こんなことを伺うのは失礼かもしれませんが、一人になった方が書き手としては家族のことを書き易いということはありませんか?
酒井 確かに存命のうちは憚られますね。ただ、家族がいなくなったからといってすぐに書くこともできず、七回忌が終わったあたりで、そろそろいいかなぁと思って書いたのですが……。
梯 私の場合、家族のことに限らず、親の目っていまだに気になるんですよね。こんなことを書いて、親が読んだらどう思うだろうって。
酒井 親御さんがご存命の場合は、そうだと思います。ただ、それでも書きたくてムズムズしてきますよね、書き手としては。
梯 なるほど。家族が生きているにもかかわらず、あそこまで書いた作品を発表していた石垣りんさんを見ていると、これこそが本当の作家だなと思います。私なんか、そういう意味では作家とは言えないというか。
梯 久美子(かけはし・くみこ)
1961年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。16年刊行の『狂うひと』で読売文学賞、芸術選奨、講談社ノンフィクション賞を受賞。その後も、『原民喜』『サガレン』など、話題作を発表し続けている。
酒井順子(さかい・じゅんこ)
1966年、東京都生まれ。高校在学中に雑誌にコラムを発表し、デビュー。大学卒業後、広告会社勤務を経て、エッセイ執筆に専念。2004年『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞、婦人公論文藝賞をダブル受賞。その他、『うまれることば、しぬことば』『枕草子REMIX』『地震と独身』『家族終了』『無恥の恥』など著書多数。
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石牟礼道子、茨木のり子、島尾ミホ、田辺聖子、辺見じゅん……。不朽の名作を生んだ9人の女性作家たち。彼女たちの唯一無二の父娘関係に焦点を当てた、2年半ぶりの本格ノンフィクション。『狂うひと』『原民喜』など、話題作を発表し続ける著者が紡ぐ、豊穣たる父娘の物語。
女人京都
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「京都は女の街である」
女性の生き方、古典、旅、文学など幅広く執筆活動を行う著者が、小野小町、紫式部、清少納言、日野富子、淀君、大田垣蓮月、上村松園など歴史上の女性たち43人の足跡を時系列順にたどる旅に出た。京都に通い続けるエッセイスト・酒井順子による、全く新しい視点から切り取った京都エッセイ&ガイド。
2022.12.15(木)
文=文藝春秋第二文芸編集部
撮影=鈴木七絵