一枚に短編マンガ1本分のストーリー

 日本美を感じる着物姿の女性たちは、スマホを持っていたり髪色がピンクだったり、とても現代的だ。

「5年前から茶道を習い始めて、着物の勉強をするようになって。日本の四季の移ろいや着物の合わせ方、柄の持つ意味など、知れば知るほど面白いんです。着るのも、描くのも楽しい。どうにかこの素晴らしさを今の若い人たちにも伝えたい、そして街に着物を着る女性が増えたらいいな……と思い、今の女性が日常の中で着物を着ている姿をテーマにしました。一枚ごとに、こういう状況でこういう気持ちでと、それぞれ短編漫画1本分くらいのストーリーを込めています」

 これはどんなシーンで、彼女たちは何を思っているのか……。絵に添えられた、東村さんが自ら綴った文章を読むとヒントが見えてくる。かがんでびっくり箱を開ける女の子の絵(作品No.7「びっくり箱」)には、こんな詩が。

お姉ちゃん、いいものあげるって小さな箱をもらったの
お菓子が入ってるのかなって、
開けてみたら可愛いハートが飛び出してきた

うちの可愛い姪っ子は折り紙が得意な女の子
紙細工のびっくり箱なんてあるんだね

「お正月に親戚が集まって、おせちやお雑煮を食べたり、初詣に行ったりするとき、ちょっとよそ行き感のある飛び柄の小紋を着るといいなと思ったんです。丸い部分が絞りになっていて、帯はピンクの絞りの名古屋帯。それが小さな親戚の子がくれたびっくり箱のピンクドットとリンクしています。珊瑚が並んだ髪飾り、ネイルの色も合っています。

 袖からのぞいている長襦袢はおたふく柄で、私が実際に持っているものなんですが、お正月に福が来るよう、縁起を担いでいるんです。そういう合わせをするのが楽しいし、可愛い。そういうことが、見た人に伝わるといいなと思っています」

アートを、着物を、気軽に楽しんでほしい

 黄八丈(きはちじょう)に草木染めの茶の帯の女性が、トンボを見つめている作品(No.14「万年青」)は、眺めているだけで清々しい気持ちになる。

 「彼女が手に持っているのは『万年青』と書いて『おもと』と読む、江戸時代に大流行した観葉植物です。染め付けの植木鉢に入れて飾るのも、江戸の粋なインテリア。今も愛好家がいます。誰かからのもらいものか、日光浴させていたものを部屋に取り込もうとしたら、トンボが入ってきた。茶道の先生が、襟足がパシッと切り揃えられたショートカットを『レモンの切り口見たいね』とよく言うんですが、そういうスカッとした女性、万年青みたいにこざっぱりと瑞々しい女の子です。

 アートには難解な表現とか、これはどういうテーマなんだろう? と考えさせたりするものも多いけれど、私は美人画が見ていて一番楽しい。国内外問わず、女性美がきれいな色で描かれている絵を見ている時間が幸せ。社会に問題提起をしたり、一石投じたりという力は美人画にはないかもしないけど、この子私にちょっと似てるな、あの子に似てるな、こういう髪型いいな、こんな風に着物を着てみたいな、と、ファッショングラビアのように楽しい気持ちで見てもらえたらいいなと思います。浮世絵は江戸時代のグラビアですから」

2022.11.24(木)
文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵