でも友人は、そこにクエスチョンを置いた。「なんで? 1万円も払って」。そのとき、ああ、僕はこの「プレー」に酔ってるなと。よく考えれば、彼のストライキは真っ当なんです。でも、僕は盲信したいタイプ。しかも、軽い拘禁状態で、好きなことなんてまったくできず携帯もつながらない。となると、だんだんハイになってきて、見知らぬオジさんたちの身の上話を聞くのも楽しくなる。だからね、僕も村田さんと同じように染まりやすいんです。疑わないタイプ(笑)。

村田 盲信の快楽、よくわかります。コンビニでバイトしていたときはそうでした。「コンビニに洗脳された」と思っていましたし。

 

岡村 まるで『コンビニ人間』の主人公のように。そのバイト経験がベースになった小説ですもんね。村田さんは大学卒業以来ずっと長い間コンビニでバイトをなさってて、芥川賞を獲った後もしばらく続けていらっしゃったって。

村田 お店のオープン前のトレーニングってすごく洗脳されるんです。一人ずつ、お店の端から端に届くように「焼き鳥いかがですか!」って元気よく声を出す、とか(笑)。そういうことを体育会的に毎日続けていると、だんだん染まっていくんです。そして、頑張れば頑張るほど、本部の人に「村田さんはものすごくやる気がある」と評価されて(笑)。

結局、盲信の快楽は「迷わなくていい」という快楽

岡村 ありますよね、洗脳される快楽。それって、「小説を書く」という行為にもあったりします?

村田 私は、小説の書き方を宮原昭夫先生(1932年生まれ。72年に「誰かが触った」で第67回芥川賞受賞)に学んだんです。宮原先生の教えを本当にそのまま、背かずにやった結果、いまの自分があるんです。でも宮原先生は、「それは違う」とおっしゃる。「村田さんは僕のやり方を全部無視して小説家になった方です」と。

 でも私は、宮原教の信者だとすごく思っているし、弟子だと思ってもらえてないのに盲信している。いまでも本当は先生のおっしゃることを全部録音したいんです。嫌がられるから、しつこくしないように我慢してますが(笑)。

2022.10.16(日)
Text=Izumi Karashima