最初は「ありがとうございます」と「すみません」しか話せなかった

――『七人の秘書』は、キャラクターの名前に数字が入っています。サランの漢字表記は「四朗」ですが、同じ発音の「愛」という意味も含まれていますか?

 はい。含まれています。プロデューサーさんから「数字が入っている、韓国の名前を教えてもらっていいですか?」と聞かれて、いくつか考えてお伝えしたら、この名前になりました。数字の「4」は、韓国では「サ」と読むんです。日本式に読むと、四朗は「シロウ」になってしまうんですけど(笑)、韓国式に読むと「サラン」になります。一応女の子の名前なので、同じ発音の「愛」という意味を含んでいる、可愛い名前になったと思います。

――ドラマの第1話に比べて映画でのサランの変化や、映画全体の見どころは?

 ドラマのときに一瞬、ちょっと悪役に見えることがありました。私は勝手に“ブラック・サラン”というニックネームを付けているんですけど(笑)、それも含め、いろんな経験を経て、芯が強くなったという印象はたしかにあります。あと、映画の見どころのアクションシーンでは、サランは臆病なので、殴り合いになると怖がってキャーキャー叫んでしまっています。でも、ジャッキー・チェンっぽい色を付けて、サランなりに頑張っているところを監督と一緒に作ることができました。

――サランの決め台詞「懲らしめてやりましょう」は映画版でも健在です。シムさんの決め台詞というか、大事にしているフレーズはありますか?

 決め台詞はありませんが(笑)、最近好きな言葉は「共に」です。先程の話に繋がりますが、俳優に限らず、誰しも「私って1人なのかな……」と感じるときってあると思うんです。でも周りに少し目を向けると、私のことを考えてくださる方々がいっぱいいるんだと、最近改めて感じます。『七人の秘書』の撮影を経験して、やっぱりこの世の中は、1人じゃなくて周りの方たちと共に生きていくんだと感じて、「共に」という言葉を好きになりました。

――以前、別のインタビューでは「真面目」という言葉がお好きだとおっしゃっていました。

 今も好きです。今回も一生懸命役作りをして、一生懸命演じました。日本語のセリフの練習も、真面目に頑張りました。

――日本での活動において、自分で自分を褒めてあげたいところというと?

 いやー、難しいですね……。あんまりないと思います……(苦笑)。でも、こうやって日本語で皆さんとお話が通じることは、ちょっとは褒めてあげてもいいのかなと思います。

――ちょっとどころではないと思います! そもそも日本語は勉強されていたのですか?

 日本で活動を始めた頃や、その前に旅行で行き来していた頃は、「ありがとうございます」と「すみません」しか話せませんでした。『怪しい彼女』の日本での公開のために取材を受けた時も、全然日本語ができなくて、通訳さんに頼りっぱなしでした。それが今は、皆さんが何をおっしゃっているのかだいぶわかりますし、自分の言葉でこうやって皆さんとコミュニケーションできるようになりました。まだまだ足りないんですけど。

――いやいや、凄いと思います。自分事で恐縮ですが、英語の習得に挫折しっぱなしでして……。仕事のためだったから頑張れる、というのはありそうですよね。

 あ、もちろんそうだと思います。私も英語のときに挫折を経験しました。私は英語はちょっと恥ずかしくて、積極的に話せなかったのですが、なぜか日本語は、ちょっと馴染みがあったからか、喋って、ミスをしても恥ずかしくなかったんですね。間違いを皆さんから直されても、恥ずかしいと感じるよりも、正しい表現を学べることの嬉しさの方が大きかったです。だからやっぱり、日本語話者の方とのネイティブスピーキングが語学の上達には一番大事だと思います(笑)。でもまだまだ知らない言葉がたくさんある、と思うことも多いのでもっと頑張りたいです。

2022.10.04(火)
文=須永貴子
撮影=平松市聖
ヘアメイク=伏屋陽子(ESPER)
スタイリスト=島津由行