#255 Ougiura, Chichi Jima(Ogasawara, Tokyo)
父島の扇浦海岸(小笠原諸島、東京都)

東京の南南東およそ1000キロ。大小30あまりの島々からなる小笠原諸島。
前回、冬に訪れた際は、父島の港から船で20~30分の「南島の扇池」が目的のひとつでした。しかし想像とかけ離れた姿に愕然。岩に打ち付ける荒波を前に、海が穏やかな夏に再訪を誓ってから、およそ半年。やってきました、小笠原!

今回は父島の中心地の大村エリアから離れて、扇浦海岸の海辺のシェアハウスに滞在。キッチンやシャワー、トイレは共同でも、ベッドルームはプライバシーが保てる個室。そして何よりも共同スペースから望む、扇浦海岸の美しい入り江の眺めが魅力です。


ここ「シェアハウス海」のオーナーは、ドイツと日本のハーフの海(かい)さん。母国・日本で、愛する海の仕事がしたいと小笠原に移住。シェアハウスでは人と人とがつながり、一緒に山へハイキングに行ったり、帰宅後に再会したり、なにかが生まれることがある。それを見るのが嬉しいと、海さん。
たしかに、シェアハウスではいろんな出会いに恵まれ、貴重な体験をしました。
たとえば、海さんから紹介してもらったスフォルツァ・ルディさん。小笠原で『ORB(オーブ)』という、フリーペーパーを編集・発行しています。

“ORB”とは英語で“眼”などを含む“球体”という意味。「この島に暮らす人間が見たり、考えたりしていることを、島の人間が島の中で作る」、島の本質的な“視点”をコンセプトに掲げ、ライフスタイルや歴史など、毎号ひとつのテーマを掘り下げた内容になっています。

でも実は、ルディさんはこれまで本の編集経験はゼロ。好きなフリーペーパーをお手本に、原稿も、デザインも、広告営業までもこなしています。
そもそもフリーペーパーを作るきっかけを聞くと、「小笠原は大自然のインパクトが大きくて、文化の部分があまり見えてこない。自分から首を突っ込んでいかないと、島の人々がやっている文化活動や島の歴史に触れられない」とルディさん。フリーペーパーは、そんな小笠原のカルチャーを再発見する場でもあるそうです。
2022.08.27(土)
文・撮影=古関千恵子