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 一歩外に出ただけで茹だってしまいそうな、厳しい暑さが続く今年の夏。食べたくなるのは、ひんやり冷たいかき氷です。

 今ではかき氷専門店も増え、さまざまなかき氷が楽しめるようになりました。そんななかでも、ぜひ味わいたいのはパティシエの技と感性で生み出されるかき氷! めくるめく感動が待ち受けています。

 かき氷界・最高峰ともいえる、パティシエたちが作るかき氷を3回に渡りご紹介します。

» 1回目 【東京・代々木】あずきとこおりを見る
» 2回目 【東京・桜新町】アンフィニを見る


口の中でひんやり溶けるシルキーなチョコかき氷

 ひと味違うかき氷のおいしさを楽しみたいならば、東京・吉祥寺の「プレスキル・ショコラトリー」へ。こちらで提供されているのは、ビターチョコレートをそのまま削ったかのような奥深い味が魅力的な、ショコラティエ(チョコレート職人)が手がけるかき氷。その名も、「グラニテ・ショコラ」です。

 そもそも「プレスキル・ショコラトリー」がオープンしたのは、2016年のこと。以来、シェフショコラティエを務める小抜知博さんは、世界各地からカカオ豆を仕入れ、選別、焙煎、摩砕、コンチング(精錬)、テンパリング(温度調整)まですべてを手がけてチョコレート作りを行う「ビーン・トゥ・バー」を手がけてきました。

 「現在は、15カ国くらいの産地からカカオ豆を仕入れて、チョコレートをつくっています。カカオは産地や品種によっても味わいが異なり、フルーティだったり、ナッティだったり、スモーキーだったりとアロマはさまざま。フルーティなカカオのなかにも、トロピカル系なものもあれば、ベリー系のものもあります。そういうそれぞれのカカオ本来のアロマを大切にし、カカオ農園の人たちがていねいに作るカカオの魅力を余すことなく表現した、最高のチョコレートをつくりたいと思っています」と、小抜さん。

 カカオ豆は通常よりも低めの温度でローストし、粒子を細かくしすぎず、ほどよいなめらかさに仕上げることが、アロマを生かす最大のポイントと言います。

 そのビーン・トゥ・バーのチョコレートを使ったタブレットやボンボン・ショコラ、ケーキも人気が高いなか、オープンした年の夏からかき氷をつくり始めたのは、「夏でもおいしくチョコレートを食べてもらいたい」との思いから。「チョコレートは暑いとどうしても溶けやすく、味の濃厚さもあって食べるのを避けられがち。そこで、新しいものをつくりたくてかき氷を始めました」と、小抜さんは話します。

 まず提供したいと考えたのは、「かき氷なのに黒い! なんで?」というサプライズ。「視覚的にもチョコレートを感じてもらいたいと思いました。まっさらな氷を削ってチョコレートソースをかけることもやりましたが、氷とチョコレートは水と油の関係なので口の中で混じり合わず、マッチしません。

 そこで、ショコラティエの技術でチョコレートと水をなめらかに混じり合わせた状態で凍らせて、チョコレート氷をつくり、それを削ることにしました。凍らせる温度や容量、削る温度帯も細かく調整しています」

 チョコレート氷に使うのは、水と砂糖とチョコレートだけ。チョコレートは、完熟したイチジクのような香りとクリームのような味わい、バランスの酸味を特徴とする、カカオ分65%の自家製ビターチョコレート「グレナダ」を使用しています。

 削られたチョコレート氷はヴェルベットのようにふんわり、なめらかな質感で、口当たりはやわらかく、驚くほどシルキー。舌にしみこんでいくかのようにすーっと溶けて、深みあるカカオの香りと味わいが一気に花開きます。

 常時4種そろう「グラニテ・ショコラ」のさらなる魅力は、このチョコレート氷と4つの異なるフレーバーを組み合わせたハーモニーの妙です。横から見ると、グラスの底に流したソースの上にぽっかりと空間が空いていて、チョコレート氷がまるで宙に浮いているように見えるのは、小抜シェフの遊び心が生み出した第2のサプライズ。

 実はこれ、チョコレート氷の下に敷かれた極薄い板状のチョコレートが仕切りとなって、チョコレート氷を支えているのです。グラスのそばには、底に流したのと同じソースが別に添えられていて、好みの量をさらに上からかけて味わうことができます。

2022.08.13(土)
文=瀬戸理恵子
撮影=鈴木七絵