「世界最高の頭脳」とも評される台湾IT担当大臣オードリー・タンさん。若かりし頃の彼女が発見した、人生で蓄財よりも大事なこととは?
タンさんの新刊『何もない空間が価値を生む AI時代の哲学』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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いい成績を取ることだけが人生じゃない
私は「学校」というシステムにあまりなじめず、幼稚園から小学校卒業までの9年間で、3つの幼稚園と6つの小学校の、全部で9つの学校に行きました。毎年学校を替わることになるので、夏休みの宿題はしなくてもいいと、よく冗談で言っていました。
母は私と弟が学ぶ環境について、常により良い場所を探していました。私たち家族が花園新城に引っ越してきた時、私は新店の山の中にある直潭小学校に転校しました。直潭小学校の近くには山と川があり、大自然に親しむことができます。
それ以前に私が在籍したどの学校も、学業重視でした。当時、私の周りにいる年長者や両親の同僚たちは皆、優秀な学生であれば将来があると考えており、すべての試験で90点台や100点を取ることができれば、順風満帆に進学や海外留学のチャンスを得て、そうして国内で博士号を取得して大学教授になれば、安泰な生活を送ることができると考えていました。
しかし、学力だけを競った結果、「自分は勝者である」と感じられる子供は5〜10%しかいないのです。残りの子供たちは、学校生活の全体を通して挫折を味わい、負け犬のような気持ちになってしまいます。
私が直潭小学校に在籍していた頃、学校にはアーチェリー部があり、チームにはたくさんのタイヤル族(原住民族の一つ)の子供たちがいました。彼らは自然や自身の体とうまく付き合っていました。試合に出るととても強いので、私と同じくらいの年齢の子供たちは、皆アイデンティティがとても強く、のびのびと誇りを持っていました。
このことから、学校の成績が良いとか、知的能力が高いということだけが人生の道ではないと気づきました。社会から認められるにはさまざまな方法があるのです。
2022.07.27(水)
文=オードリー・タン