紅葉を見に、京都へ行こう! 京都在住の写真家・小林禎弘さんが、長年の撮影の経験を踏まえて紅葉の名所を紹介します。京都の人ならではの行き届いた観光案内、撮影指南としてもお楽しみいただけます。

【第9位】奥嵯峨

化野念仏寺の石段に鮮やかな楓が風情を添える

 今日は、京都の北西部をゆっくり歩いてみましょう。

 嵯峨釈迦堂の名で知られる清凉寺は、見上げる巨大な山門と中国(当時は宋)から運ばれた釈迦如来立像が有名です。

 境内には聖徳太子殿のような紅葉撮影ポイントもあるのに、あまり人影がなく穴場的存在と言えるでしょう。山門のすぐ横には嵯峨豆腐の名店「森嘉」があります。川端康成や司馬遼太郎の作品にも登場するというその豆腐は、境内にある京料理店「竹仙」で頂けます。

 清凉寺の東側を巻くように奥嵯峨に向かいます。べんがら格子むしこ窓の奥ゆかしい京町家や、生垣から覗く紅葉などを眺めて歩くうちに二尊院にやってきます。

 伏見城の遺構とされる総門・薬医門からまっすぐ小倉山に伸び上ってゆく「紅葉の馬場」と呼ばれる参道の両側の楓の巨木が紅葉のトンネルを作り上げています。因みに「小倉百人一首」や小豆を煮た「小倉」の名はこの小倉山から来ています。

 道端に立っている石碑や道標にかかる美しい紅葉を見ながら歩くと「博物館さがの人形の家」の紅葉の庭園が塀越しに見えます。ここは日本唯一の古人形専門の博物館です。ここから先は石畳を配して、清滝に向かう旧街道の様相を示してきます。

 山が迫り立派な旧家の並ぶ街並みが現れ出したら、化野(あだしの)念仏寺の石段があります。街並みと石畳の少しカーブした街道、寺に続く石段と石垣、遠くの山並み、そこに鮮やかにかぶさる楓の枝、一幅の絵画の世界が広がります。

 化野は平安の昔、東山の鳥辺野や洛北の蓮台野と並ぶ葬送の地でした。化野念仏寺の歴史は、のちに空海が野ざらしになっていた遺骸を埋葬したことに始まるとされています。境内の約8000体という石仏・石塔は、明治になり掘り出して集めたものです。今では、その無縁仏にろうそくを手向け供養する千灯供養があまりに有名になりましたが、石仏と紅葉のコントラストも大変美しいです。

 落葉で赤の絨毯になった合間にひょっこり顔を出す石仏の数々など、撮影ポイントは細かく見ればいくらでもあります。逆光で撮影すれば、ドラマチックな絵が撮れるかもしれません。

奥嵯峨(清凉寺~化野念仏寺)の紅葉スポット
交通手段 清凉寺へは・市バス大覚寺行き「嵯峨釈迦堂」下車、徒歩約1分・JR嵯峨野線(山陰線)「嵯峨嵐山」下車、徒歩約15分。化野念仏寺へは・京都バス「鳥居本」下車 徒歩約5分

小林禎弘
フォトグラファー。京都市生まれの京都市育ち。同志社大学を卒業後3年間の公務員を経て撮影の世界へ。雑誌、書籍、広告を舞台として、京都を中心に西日本を幅広くカバー。「撮影歴30年ですが、それくらいでは京都の事はまだまだわかりまへん」。

2013.09.22(日)