ビジネスホテル=サラリーマンの定宿というのは、どうやら過去の話らしい。

 天然温泉や、かゆいところに手が届くサービスは、ひとり温泉ラバーであるライター山村光春さんの心をしっかりと摑んでいた。

 山村さんの滞在を参考に、温泉付きビジネスホテルを選ぶと面白い旅になりそうだ。

“ひとり温泉という天国”に一番近い宿はここでした

 ビジネスホテルではついぞ思いも期待もしていなかったが、「そう言えば凝ってた」な心のしこりをめざとく見つけて優しく丁寧にほぐしてくれるドーミーインが登場した時、「ついにビジホ界のゴッドハンドが現れた!」と色めき立った。

 「結局、寝心地ってそこだよね」な上下で硬さが違う、2層構造の枕。妄想上の「夜、小腹がすいたら食べたいもの」を完全再現した夜鳴きそば。風呂上がりにテンション爆上がりしかないアイスキャンディーのサービス。

 人の甘くふらちな欲望に、ことごとく寄り添うサービスの数々。そして極め付け。出張が決まった瞬間「ドーミーイン一択!」の、予約がワクッとなる理由は、むろん温泉の存在だ。

 そもそも、あの「肌あたりよくじわじわ温もり湯冷めしにくくすぐにバタンキュー」な天国的快感は、温泉宿だけが持っていた切り札ではなかったのか。それを「ひとりでも気兼ねも気後れもしない」ビジネスホテルでかなえられるなんて、ひとり温泉ラバーにはお得すぎる。

 しかもたいていは天然温泉で、露天付きとくれば完璧。オルゴールの「瑠璃色の地球」がBGMに流れるなかお湯に浸かり「夜明けの来ない夜はないさ~、温泉がないドーミーインもないさ~(多分)」と、鼻歌をうたいながら涙した夜もあった。

 そんな「ドーミーインの乱」は、シンプル&効率を標榜していたビジネスホテル界を揺るがせ、ネクストレベルに押し上げた。そう、他にも温泉付きを謳うビジネスホテルがじわじわと増えてきたのだ。かねてより「作家が温泉宿に籠もって執筆する」にこよなき憧れを抱いていた僕は、これ幸い! とばかりに手軽に「お籠もり執筆」を試みた。

 まず移動の時間とお金をかけたくないので(かつ観光もしないので)、狙い定めるのは家のできるだけ近く。僕の場合、都内だと高くつくので、埼玉や千葉などちょい近郊で探す。“中日”がキモなので、連泊はマストだ。

 現地にはお昼過ぎに到着。ランチを食べた後、地元のスーパーに立ち寄り(これもアガるポイント)、食材や飲み物をごっそりと買い込む。そして15時ちょっと前のフライングぎみにチェックインすると(だいたいできる)、まず食材を小さな冷蔵庫へぎゅうぎゅうに詰める。

 さらに机の前に鏡があると集中できないので(あれどうしてそうなってるの?)タオルなどで隠す。そこからは移動の時間ロスを埋めるかのように、すぐさま仕事にとりかかるのだ。たいてい馬車馬のごとく頑張っちゃうのは、“温泉がニンジン”だから。

 「ここまでできたら入ろう!」と、心に誓いながらの仕事は、家でだらだらやるより格段に早い。

 朝は起きてすぐ、界隈のパトロールを兼ねてジョギングすると決めている。そこに自然があってもなくても、見知らぬ街はやっぱり楽しい。ひと汗かいて温泉→朝ごはんという流れがいつもの至福ルーティーンだ。

 そんなこんなでハマって定期的に繰り返していると、いつしか“ワーケーション”という言葉が出てきて「あれ? これもしかして僕がやってることじゃあ……」と、なぜかこっぱずかしい気持ちになるのだった。

※天然温泉の有無、各種サービスはドーミーインの各施設により異なります。

2022.08.23(火)
文=山村光春

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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