宝塚歌劇団で心に残る名作を手掛けてきた演出家・上田久美子による書下ろし戯曲「バイオーム」が2022年6月8日(水)より東京建物Brillia HALLにて幕を開ける。

 先月行われた制作発表会見の様子、そして今回「バイオーム」で庭師の野口とイングリッシュローズの二役を演じる、俳優・古川雄大さんのインタビューをお届けします。

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人間社会と植物の世界を二層に描きながら、現代に強いメッセージを投げかける

 連休を目前にした4月下旬、帝国ホテルにてスペクタクルリーディング『バイオーム』の制作発表会見がひらかれた。

 主演の中村勘九郎をはじめとする7名の豪華キャストに加え、作・演出家デビューとなった『月雲の皇子』以降、宝塚歌劇団で『星逢一夜』や『BADDY』、『桜嵐記』といった数々の名作を生み出し、ファンの間でも高い評価を集めながら、先日退団し海外留学を発表したばかりの上田久美子退団後初となる公の場ということもあり、会場には多くの記者が集まっていた。

 「上田さん脚本、そして一色さん演出のもと、こんなに豪華なみなさんとご一緒できるだけで幸せだし、ワクワクしています」という勘九郎の挨拶から始まった会見は、その言葉に象徴されるように期待感と和やかな空気に満ちたものに。

 上田が書き下ろしたのは、人間社会と植物の世界とが絡み合い展開していく物語で、キャストたちはそれぞれに一人二役を演じていくという。

 作品の軸となる代々続く政治家一族の一人息子・ルイと、ルイの家で働く家政婦・ふきの孫娘・ケイの二役を演じる勘九郎は、脚本を読んだ感想を「完成形がどうなるかまだ全然わからないけれど、それはそれで楽しみなこと」と語る。

 そのルイの母親・怜子と、クロマツの芽を演じる花總まりは「まだ台本を1~2度読んだだけのインスピレーションしかないけれど」と前置きしながら、「怜子がやるからクロマツの芽の意味がある、二役の関連性というものも絶対大切なものだと思うので、果たすべき役割を把握しながら役を作っていきたい」と意気込んだ。

 家政婦ふきの一人息子で庭師の野口とイングリッシュローズの二役を演じる古川雄大は、この不思議な物語を読んだ第一印象として「目の前にメリーゴーランドがあるなと思って乗ってみたらジェットコースターになっていて、乗り終わったときに心を鷲掴みにされていて、もう一回乗りたいと思える作品」と説明。この絶妙なたとえに、演出の一色から共感の拍手が起こる一幕も。

 また花療法士・ともえと、竜胆を演じる安藤聖も、「台本を読み始めたときには、まるで絵本を読んでいるかのようで、そのうち憎悪劇が始まり、次にファンタジー、そして悲劇と、いろんな要素が入ったホン」と印象を語った。家政婦・ふきと樹齢200年近いクロマツを演じる麻実れいによれば、「植物の世界は、かわいくてコミカルな箇所もたくさんあります」とのこと。

 そんななか、「舞台でどう表現するのって気持ちになった」と率直な感想を述べたのは、一族の家長・克人と、クロマツの盆栽を演じる野添義弘。しかし、わかりづらい作品のようでありながらも、「見ていくとどんどん引き込まれてメッセージがわかって、持って帰れるものがすごくある作品」と付け加えた。

 今作から上田の「戦後の日本社会への怒り、そして希望のようなものを感じた」と言うのは、一族の婿養子・学と、若き大木・セコイアの二役を演じる成河。「政治家一族の庭園に、日本古来の植物と西洋の植物が混ざり、よくわからない庭園になってしまうというのが、この作品にとってとても大事なテーマにもなっていたりするので、植物として、どういう心持ちで何を見てきたのかを考えるのが楽しみ」とも。

 今回、宝塚歌劇団を退団して初めて戯曲を書いたという上田。「お題は何を書いてもいいということだったので、今の社会や世界から自分が受け取ったものを即興的に形にした」そうで、さまざまな要素を内包しながら人間と植物の世界を描き出した本作を「よく言えば不思議、悪く言えば変な感じ」と表現。

 その作品を最初に受け取った演出の一色は、「とてつもない台本」だと思ったと読んだ印象を語り、「本を開くと世界が目の前にどんどん広がって、本を飛び出して、気づいたら自分のいる世界が本の中に入ってしまうイメージ」として、今回あえて朗読劇ではなく“スペクタクルリーディング”という言葉を用いたことを説明。

 「きっと見てくださる方は、自分がそれぞれのキャラクターになったり、木々になったり、気づいてみたらそれを見下ろしている天空の何かになってみたり。物語が進むうちに、劇場の空気が最初とは全く違うものに感じていただけると思う」と話すと同時に、「いままでの朗読劇では感じられなかった想いを感じていただけるはず」とも。

 初めて演出を他人の手に委ねることになる上田は、そんな一色に対して「自分が考えていた世界に他人が加わって、より広がっていく体験を今までさせていただいたことがなかったので、非常に楽しみにしています」とエールを送った。

 上田久美子の紡ぎ出す重層的で深淵な世界が、一色の演出、そして実力派キャストたちの身体や声を通して、どんな広がりを見せていくのか期待感が高まる。

スペクタクルリーディング『バイオーム』

代々続く政治家一族の一人息子・ルイ(中村勘九郎)は、夜になるとひっそり部屋を抜け出し、庭の大きなクロマツの下でフクロウの声を聴いていた。父に家族を顧みる暇はなく、母・怜子(花總まり)は心のバランスを欠き、花療法士・ともえ(安藤聖)の営む怪しげなセラピーに通う日々。一族の家長としてルイを抑圧する祖父・克人(野添義弘)、婿養子で元官僚の学(成河)、いわくありげな家政婦(麻実れい)とその息子の庭師(古川雄大)ら、さまざまな人間たちの思惑が渦巻くなか、ルイはクロマツの樹の下の声を聴く。

公演期間 2022年6月8日(水)~12日(日)
会場 東京建物Brillia HALL
脚本:上田久美子
演出:一色隆司
出演:中村勘九郎/花總まり/古川雄大/野添義弘/安藤聖/成河/麻実れい
※舞台のライブ配信も決定 
https://www.umegei.com/biome/

2022.06.07(火)
文=望月リサ
撮影=花井智子