昨今のキャンプブームで、ゴールデンウイークのキャンプ場はとくに賑わいをみせ、まだまだこのブームは続きそうだ。
ただキャンプ初心者にとっての第一関門は“道具選び”で、数多くあるアウトドアブランドから選ぶのは至難の業である。そこでいま注目されているアウトドアブランド「ムラコ」をおすすめしたい。
モノトーンを基調にしたシンプルかつスタイリッシュなアイテムなことから、ファッション業界をはじめ有名人などのファンが急増している「ムラコ」。
ブランド誕生から6年で、アウトドア業界を駆け上ってきたブランド代表の村上卓也さんにブランドの歴史、また2022年2月にオープンした東京・立川の旗艦店「muraco TACHIKAWA」についてお話を伺った。
「テントで“黒”は、発売当初批判が強かったんです」
――金属加工業の会社が母体となっているようですが、ブランドを立ち上げたきっかけは?
埼玉県狭山市にある株式会社シンワの新規事業として、2016年にブランドを立ち上げました。父が創業し、私が2代目になります。ただ大学を卒業してから家業を継いだわけではなく、インテリア会社や広告代理店勤務を経て、30歳のときにシンワに入りました。
いまも変わらずですが、金属加工業は景気の波風をモロに受ける業界です。つねに必死にやっていましたが、あるとき「定年を65歳と設定したなら、この環境で35年以上はキツく、ならば“35年もある”のだから新規事業にチャレンジできるはず」と一念発起しました。
初めはアウトドアの分野に興味はなく、金属加工の技術を生かせればと思っていました。そんななか、自分の結婚式の引き出物で金属の風鈴を作ったところ、評判がよく、人に喜んでもらえる嬉しさを知りました。いままで仕事で削って作った工作機械の部品は、人目につくことは絶対になかったので、消費者が喜んでくれる物つくりも視野に入れて考え始めました。
――金属加工業とアウトドア用品は、かけ離れているように思えてしまいますが?
風鈴の他にキャンドルホルダーを試作してみたものの、事業展開までは厳しく、そんなときに趣味のキャンプでアウトドアチェアをたまたま眺めていたら、切削加工されたパーツを見て、ピンときたんですよ。
これまでは、完成品を作るなら最初から最後まで社内で仕上げるものだと思い込んでいたのですが、“できるところはやればいいし、できないところはできるところに任せればよい”と気がつきました。当たり前のことなんですがね(笑)。
過酷な環境下にあるアウトドアにおいて、自社が培ってきた100分の1ミリ単位の誤差さえ許されない加工技術は、大きな強みになり事業にもなると思いました。
――本格的にブランドがスタートし、大変だったことはありますか?
最初の商品はタープ(日除け)を支えるポールを作りました。金属加工のノウハウを生かせたことで商品化は簡単にできたのですが、生地が含まれるタープやテントは悪戦苦闘の日々でした。
まずは素材の知識を勉強し、営業がいないので自分の足で走り回っていました。1年半くらいのあいだ、休みなくムラコの業務をこなしていましたね。
いまは従業員が増えたことで、劇的に仕事が回るようになり、検品から出荷、イベント出店などを一人で担っていた時代が懐かしく感じます。一人では決して、ここまで辿り着くことはできなかったはずです。
――ブランドカラーである“黒”が定着していますが、そもそもアウトドアシーンでの“黒”はタブーだったのでは?
黒のテントを発売したときは、業界内をはじめSNSのコメントで散々、叩かれました。
確かに、“熱を吸収する”“視認性が悪い”“スズメバチが寄ってくる”など、ネガティブな要素が多いです。でもこのテントのおかげで、良い意味でも悪い意味でも認知されたことは間違いないです。
じつはムラコ=黒ですが、当初はミリタリーカラーを考えていました。最初のテントの色も工場にはオリーブで発注していたのですが、送られてきたサンプル画像が光の当たり方で、真っ黒に。
本来なら再撮してもらいたいところでしたが、衝撃的にカッコイイと思ってしまい、アウトドアでの黒はタブーとされていることは分かっていながらも、きっと私のようにカッコイイと思ってくれる人がいるはずだと信じて、ゴーサインを出しました。
黒に続いてグレーを展開すると、女性から「色がキレイ」「ブランドの雰囲気が好き」と購入してもらえています。有り難いですし、嬉しく思います。
2022.05.24(火)
文=猪野正哉
撮影=佐藤 亘