想いを繫ぐ新事業

 2021年7月、高橋さんは同じ地域の閉店したセブンイレブンを利用して、複合ショップ「セブンアート」を立ち上げた。セブンアートに入る4店舗のうち、高橋さんが手がけるのは「senkiya ATONIMO」。

 一見すると普通の古道具店だが、ここに並ぶのは、問屋からの仕入れではなく、解体される個人宅から引き取った家具や食器、建具など、捨てられるはずだったもの。

 誰がどんな想いで使ってきたものなのか持ち主から丁寧に聞き、その背景ごと次の使い手に繋ぐことを大切にする。

 このスタイルの事業は、高橋さんの友人が代表を務める「リビルディングセンタージャパン」(通称“リビセン”)が先だって行い、引き取りを「レスキュー」と呼ぶことでも知られている。

 「リビセンの提携店のような感じですね。彼らが大事にするレスキューの精神を広めたいと思いました。ひとりが使って終わりじゃない。誰かが使った後にも、次がある。ATONIMOという名前にはそんな想いを込めています。

 ものを託すこと、継承することが浸透していけば、空き家や土地を貸してくれる人が増えるんじゃないかという淡い期待もあります」

みんなを巻き込んで面白い街に

 セブンアート内のカフェは、高橋さんの小・中学校の後輩である北見奈津紀さん夫婦がオーナー。

 「地域に根付いたカフェをいつか開きたい」と思っていた二人は「一緒に地元を盛り上げよう」という高橋さんの言葉に背中を押され、初めての店舗を持った。

「僕が全部やるより、いろんな人を巻き込んだほうが予想外の面白い展開になりそうじゃないですか」

 カフェも雑貨店もセブンアートも、人が集まる場所をつくるため。自分が住む町をどう楽しくできるか。高橋さんはいつもそのことを考えている。

 「senkiyaやセブンアートのある神根地区は、川口市の中でも何もない田舎といわれている場所なんです。でも、ここは緑が多くていいところ。

 地域に住む人が『私の地元、面白いからおいでよ』と言える場所にしたいし、遊びに来た人が自分も地元で何かやってみようかなと思うきっかけの町になれば嬉しいですね。僕にとって、黒磯がそうだったみたいに」

ある日のTime Schedule

●6:50 起床~朝食
●7:30 子どもたちを小学校に送る~買い出しへ
●10:00 カフェの準備
●12:00 カフェオープン
●18:00 クローズして片付け、仕込み、自由時間 (カフェで仕事をしたり、帰宅してくつろぐ)
●1:00 就寝

2022.04.14(木)
Text=Asami Kumasaka
Photographs=Nao Shimizu

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

CREA 2022年春号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

特別定価880円

「CREA」2022年春号の特集は、「あたらしい暮らし 楽しい暮らし」。激動する時代の中“楽しい暮らしの正解”はなくて、きっとそれは百人百様。でも人生100年時代となり、キャリアがマルチステージ化していくと言われる世界を、自分らしく楽しむためには、自分の中に「種」を持っていたい。今すぐじゃなくても、ちょっと先の未来に芽が出るような、小さくても、強い種を――。