栃木県黒磯市(現・那須塩原市)みたいな町をつくりたい

 2022年1月のある日曜日。都心からも最寄り駅からも遠い住宅地の一角が縁日のように賑わっていた。

 ここは、埼玉県川口市の「SENKIYA SHINMACHI」。植木屋だった敷地にカフェをはじめ、お菓子店や雑貨店、革製品の工房が看板を掲げ、家族連れから若い人まで大勢が訪れる。

 この場所を束ねる高橋秀之さんは、代々続く植木屋「千木屋」の4代目。「当たり前に継ぐつもりだった」という稼業ではなく、「senkiya」としてカフェ兼雑貨店を開いたのは、2009年のこと。20歳の時に出合った、栃木県・黒磯(現・那須塩原市)の「1988 CAFE SHOZO」がきっかけだった。

「リノベーションなんて言葉がなかった時代から、古い建物を生かした独自の店構えをしていたのがめちゃくちゃかっこよくて。それに、そこを中心に人や面白い店が集まって、黒磯が活気づいていた。田舎にこんなに素敵な町があって、それを1軒のカフェがつくっていることに衝撃を受けました」

 それから何度も何年も黒磯に通った高橋さんは、スタッフ募集を知り、「これを逃したら次はない」と、住まいを那須に移して憧れの店で働き始める。

 そして、店が軒を連ねる通称“SHOZO Street”を通るたびに、実家がある川口の通りで同じことができないか、将来を思い描くようになったという。

 「通りのあの建物を使えば、こんな店ができそうだとか、あれこれ考えましたね。ある時、その話を高校の同級生にしたら、『高校の時も、みんなで商店街をやろうって言ってたよね』と言われて。

 僕自身はすっかり忘れていたけど、その時、『1988 CAFE SHOZO』や黒磯の町にたまらなく惹かれたことが腑に落ちました」

 黒磯での修業を終え、いざ川口に戻ったものの、当の通りは農家が多い住宅地。借りることも店舗にすることもハードルが高く、「ここでは無理かも」と諦めかけた高橋さんは、ふと閃いた。

「ちょうど実家が新しい家を建てたタイミングで、壊す予定の古い母屋があったんです。普通の住宅でも店にできるという前例を地域の人に見せれば、貸してくれる人がでてくるかもしれない。まずはここを拠点に人が集まる場所をつくっていこうと思いました」

 好きで集めていたという古材や古家具を使い、2階建ての広い一軒家をほぼひとりで改装。2年ほどかけて、まず玄関横のスペースで雑貨店をオープン。

 妻の雅子さんと暮らしにまつわる品を販売しながら改装を続け、ギャラリーとカフェもスタートした。

 お客さんと繋がりのある作家やミュージシャンが展示やライブをして、そこに来た人が次にまた友達を連れて来る。そんな風に人の輪が自然と広がっていった。

「これまで敷地内でお店を出してきたメンバーも、元お客さんがほとんど。僕のやりたいことに共感してくれた人が集まり、巣立っていく人がいたら、また新しくやって来る人がいて。少しずつ形を変えながら町っぽくなってきました」

2022.04.14(木)
Text=Asami Kumasaka
Photographs=Nao Shimizu

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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