料理家の渡辺康啓さんが、東京から福岡に移住したのは2015年。その後コロナ禍でどこにも行けず、誰にも会えない状況になった2020年にYouTube「せせチャンネル」をスタートさせた。

 その反響の大きさに、「誰かの役に立たなければ意味がないということに気付いたんです」と渡辺さん。同時期に、ラブラドールレトリバーの子犬、ジーノを迎え入れ、福岡市内で大型犬と暮らせるマンションに引っ越し、さらに2021年の秋に再び東京へ。


犬との暮らしで大らかに

「理由はいろいろありますが、ジーノの存在も大きい。ひとり暮らしで出張も多い自分が、マンションで大型犬と暮らすとなったとき、ドッグランやトリミングサロン、ペットホテルが充実している東京のほうが、自分もジーノも圧倒的に暮らしやすいですから」

 現在、渡辺さんが暮らすのは約70平米のマンション。ごく一般的なファミリータイプの間取りに大きなジーノと“ふたり暮らし”。

「これ以上広いと掃除が大変です。それでも負担を感じて、最近ルンバを導入しました。これって自分ではけっこうな暮らし革命。以前はホコリ一つ許しません! みたいな人間でしたが、ルンバが8割きれいにしてくれるなら、それでいいと思えるようになりました」

 渡辺さんが“相棒”であるジーノと暮らすようになり、一番大きな変化といえば、性格だという。

「大らかになったと思います。ひとりで生活するって、すべてが自分の思い通り。自分が置いたものは絶対に動かないし、自分が汚さない限り部屋は汚れません。

 でも、動物は自分の思い通りにはいかないので、いい意味であきらめがよくなりました。多少整っていなくても、このくらいでまあいいかと。だから、以前に比べて料理も大らかになったと思います」

2022.04.10(日)
Text=Noriko Wada
Photographs=Ichisei Hiramatsu

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

CREA 2022年春号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

特別定価880円

「CREA」2022年春号の特集は、「あたらしい暮らし 楽しい暮らし」。激動する時代の中“楽しい暮らしの正解”はなくて、きっとそれは百人百様。でも人生100年時代となり、キャリアがマルチステージ化していくと言われる世界を、自分らしく楽しむためには、自分の中に「種」を持っていたい。今すぐじゃなくても、ちょっと先の未来に芽が出るような、小さくても、強い種を――。