東京都の緊急事態も明けた10月、シャンパーニュ愛好家たちが集ったのは日本橋にある「おでん屋 平ちゃん」。以前もCREA WEBでご紹介した、フランス料理店「ラ ペ」 から誕生したおでん屋さんだ。

 長い歴史を持つメゾンが、コラボレーションディナーをなぜ“おでん”と? 謎めきつつも魅力的なイベントは、ただシャンパーニュと和の味を合わせるだけのイベントとはまったく違う。これまでにない味覚経験の宝庫だった。


オンラインでセラーマスターとの会話も。新企画満載のシャンパーニュイベント

 「おでん屋 平ちゃん」はフレンチの「ラ ぺ」の姉妹店とはいえ、日々、和のだしをしっかりと引き、日本全国から届く素材を使った料理が自慢だ。この日のスペシャルコラボディナーでも、その姿勢は変わらず。日本の食文化を名メゾンのシャンパーニュに寄り添わせたコースで、存在感を見せてくれた。

 そして、この日は単に味を合わせるだけではなく、メゾン マムが開発したまったく新しいテイスティング方法の体験も。さらには、オンラインでフランスにいるセラーマスターのローラン・フレネさんと繋ぎ、解説を聞いたり質問をしたりできるという、新時代のイベントとなった。

◆前菜盛り合わせ・おでんサラダ×マム グラン コルドン

 新体験の入り口は、メゾン マムの代表的なシャンパーニュ「マム グラン コルドン」で。赤いリボンが象徴的なボトルは、誰しもが憧れる。

 フレッシュさや成熟味が複雑に絡まり合い、小さくて個性的な前菜や、フレッシュな野菜と、味の濃い野菜をふんだんに使ったサラダをいっそう華やかにしてくれる。

◆春巻き×マム ミレジメ 2013

 すでに多くのファンを生んでいる、平ちゃん特製の春巻き。サクッと香ばしく揚がった春巻きの皮の中には、じっくりと煮込まれた豚肉と大根が折り目正しく入っている、今までにない逸品だ。

 こちらに合わせるのは、「マム ミレジメ 2013」。優れたぶどうが穫れた年だけ作られる「マム ミレジメ」は、6年の歳月を経て、この日初めてテーブルへ。セラーマスター曰く「フレッシュなバターや、オーブンから出したてのブリオッシュのような旨み」で、センセーショナルな心地よい甘みがあり、香ばしく揚げた春巻きや豚肉の脂の旨み、そしてだしの味わいとしっくり馴染む。

 さて、ここで登場したのが、すりガラスでごく細い脚を持つ、見たこともないグラス。こちらがまさしく、メゾン マムが提案する「新しいテイスティング」に欠かせないアイテムなのだ。

 こちらは視覚や触覚から脳に伝わる影響をテイスティングに反映させたいと、メゾン マムが脳科学者のガブリエル・ルブゼさんとともに開発したもの。まるでグラスが凍っているかのように見えるすりガラスでできており、脚は少し鋭利なほどの角ばった形。さらに、脚はアルミでできているため軽く、普段とは重心が違う。

 「この違いが脳に伝われば、味や香りが変わって感じられるはず」とセラーマスター。さらには、このグラスはピノ・ノワールとの相性がよく、このグラスで「マム ミレジメ2013」を飲んでみると、たしかにどこか柑橘のニュアンスが増し、完熟したレモンのような爽やかさが感じられるようだ。

 その爽やかさは春巻きともぴったり。豚肉の脂と大根の滋味の中に桃のような華やかさが広がり、練り辛子と合わせるのも楽しい。

◆甘鯛と毛蟹×マム グラン コルドン ロゼ

 旨みたっぷりの甘鯛と毛蟹に合わせるのは「マム グラン コルドン ロゼ」。通常の透明なグラスで飲むと、フレッシュなフルーティさを感じる爽やかな一杯だ。

 そして、ここでも新しいグラスが登場! 濃いプルーン色のグラスは、美しい銀色の脚を持つ。ロゼならではのピンク色をあえて遮断され、今度はステンレス製の脚がずっしりと重たい。普段のグラスで飲むときよりも、よく熟れたチェリーのような香りが華やかに立ち、味はブリオッシュのように深くなる。

 ただでさえ甘みのある甘鯛と毛蟹の身に、甘く仕上げただし、さらには柚子のフレッシュな香りが広がる一皿は、どちらのグラスでも強烈な甘みが放たれ、引き立て合って、心弾む体験に。

◆おでん盛り合わせ×メゾン マム RSRV ブラン・ド・ノワール 2009

 平ちゃんのメインはもちろんおでん。丹精して引いただしとフレンチならではのコンソメを合わせ、黒米こんにゃく、がんもどき、つくね、つみれ、牛頬肉が優しく煮込まれている。

 このシックで繊細で完成度の高い一皿には、“神のお酒”と称されるメゾン最高峰の一杯が登場。選び抜かれたピノ・ノワール100%、しかも格別によい年とされる2009年のヴィンテージだ。

 さらにスペシャルなことに、先ほどの2種類の新しいグラスも使うことができたから楽しい。通常のグラスでも熟成した味わいを豊かに感じられるが、すりガラスのグラスでは、そこにナイフで切り込んだときのようなフレッシュな香りと深い旨みが加わる。また、プルーン色のグラスでは、森の下の草のような熟成香やより深まったニュアンスが広がるようだ。

 長い年月を経てもなおフレッシュ感を失わず、しかし熟成した最上のシャンパーニュは、とろけるように煮込まれたつみれや、自然由来の滋味が広がるこんにゃくとお互いを高め合っていた。

◆鴨のにゅうめん×メゾン マム RSRV キュヴェ ラルー 2002

 最後はシメの一杯。やはり楽しみにしているファンが多い、だしの神髄を味わう一品だ。「メゾン マム RSRV キュヴェ ラルー 2002」はこの日登場した中でも、特に特別なシャンパーニュだ。収穫量は少なかったがクオリティーは抜群だった2002年ヴィンテージは、まさに情熱の年、とセラーマスター。

 「10年以上の歳月をかけて進化し続けたとしか思えない」という、“ワイン”としてのポテンシャルに溢れたシャンパーニュで、フレンチなら熟成の進んだチーズと共に楽しみたくなるところ。しかし、どこかスモークのようなニュアンスがあり、鴨肉・だしとのうっとりするようなマリアージュが実現した。

◆フルーツパフェ×マム グラン コルドン

 充実のコラボコース、最後はシンプルなフルーツのパフェで。最初のシャンパーニュに戻ることで、複雑で、味覚と嗅覚だけでなく、視覚・触覚、頭も使って、しかもとことん楽しんだコースの余韻に浸ることができる。カウンターに並ぶ参加者たちの顔は、とても充実し、ほっと一息。セラーマスターとの会話も弾み、会は幕を下ろした。


 この日は「メゾン マム」とおでんやだしとのマリアージュだけではなく、名門メゾンだからこそ開発できた新しいグラスでのテイスティング体験、フランスのセラーマスターとの会話など、ここでしかできない数々の新しい経験をすることができた。

 そして、自由にお酒や会話を楽しめなかった時期を経て、新しい生活様式になった今。決して油断はできないけれど、シャンパーニュグラスを片手にカウンターで興味深いコースを楽しむって、なんて幸せなことなんだろう! カウンターに並ぶゲストたちにも、そんな笑顔が弾けた夜だった。

おでん屋 平ちゃん

所在地 東京都中央区日本橋室町1-12-10 J1B.L.D.G B1
電話番号 050-3623-1723
営業時間 11:30~15:00(L.O.13:00)、18:00~22:00(L.O.20:30)
定休日 木曜、不定休 月に2日
ランチコース 4,950円、ディナーコース 9,900円(ともに税込、サービス料別)
※新型コロナウイルスの感染拡大により、営業時間が変更となる場合がございます。最新の情報は店舗までご確認ください。

◆メゾン マムについて

1827年、ドイツのワイン商、マム一族によって創業された。日本へは1877年から輸出が始まっており、日本皇室御用達のシャンパーニュにも選ばれている。2017年にはボトルに赤いリボンを直接彫り込む革新的なデザインの「マム グラン コルドン」をローンチ。

お問い合わせ ペルノ・リカール・ジャパン株式会社

http://www.pernod-ricard-japan.com/

※飲酒は20歳を過ぎてから。
※飲酒運転は法律で禁止されています。
※妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。お酒は適量を。

2021.11.15(月)
文=CREA編集部