「うれしかった」神谷 明さんとの共演

――共演するカンナ役の蒔田さん、夜叉役の入野自由さんたちとは別録りだったそうですね。そのあたりの難しさもありましたか?

 台詞の掛け合いの部分は、すでに入っている声や、これから入るだろう声を予測してやっていかないといけないので、そのタイミングを合わせるのは難しかったですね。声の入っていないところでは、皆さんのテンションがどれくらいに仕上がるのかが読めないので。声優さんは感情を声に乗せることにおいて当然プロフェッショナルなので、抑揚の差もあまりないほうがいいのかなと思ったりして、想像力が鍛えられました。

 今回うれしかったのが、大国主(※カンナが目指す出雲を治める神)を神谷 明さんがやられていること……!  私は幼い頃から『北斗の拳』や『めぞん一刻』など数々のアニメーションで神谷さんの声に支えられ、元気づけられてきたんです。そういう方と一緒にお仕事ができたことは光栄なことだな、と思いました。

――本作を通して、大好きな母親の死を乗り越えるというカンナの成長が描かれます。柴咲さんご自身は、壁に当たったとき、いつもどのように乗り越えていますか?

 とにかく、よく寝ることですね。私は考えることも好きなんですけど、考えても埒が明かなかったり、解決しない問題もあります。それこそときが解決することもありますよね。それに対してずっと追いかけ続けてしまうと、心が疲弊してしまう。タイミングも、ご縁もあるだろうし、そのとき、そのときの感情をキャッチして、ある意味受け流せるほうが生きやすいのかなと思っています。

――最近の柴咲さんのプライベートについても聞かせてください。現在、北海道と東京の2拠点で生活をなさっていますが、何がきっかけで北海道への移住となったのでしょうか?

 予期しない形で世の中が変化したり、そのことでお休みが続いたのは、大きなタイミングだったと思います。

 どういう時期に生き方を変えるかによると思うんですけど、例えば、うちの父がそうなんですが、歳を重ねて高齢になるとコミュニケーションがすごく必要なんですよね。そういうときには歩いてどこにでも行けたり、人と接する機会も多い都会のほうがいいのかな、と改めて感じました。今の私の年齢とタイミングと考えとしては、静かな森の中でゆっくり過ごしたいな、という気持ちが強かったんです。

――2拠点になってから精神的、肉体的に楽になった部分や発見もありましたか?

 帰る場所がふたつに限らず、「いろいろあっていいんだな」と思えたことは、気が楽になった点かもしれません。特殊な仕事なので、東京の家にいても落ち着かなかったりしていた20~30代だったんです。もしかしたら、今後はさらに拠点が増えるかもしれないし、定めたくなるかもしれないし、その変化を楽しめるのは希望につながっていますね。

2021.10.23(土)
文=赤山恭子
撮影=釜谷洋史