“ちょい片づけ”のすすめ

 では、どうしたら片づけに対する理想主義から脱却できるのか。それにはまず、“部分的に片づけてやめてみる”ところからはじめてみてはいかがでしょう。今日はとにかくこの部屋の床の三分の一が見えればいいとか、ベッドの上の洋服だけ整理しようという具合に一部だけ片づけて、終わったら「今日はもうここまで」と中途半端でやめる。これが大事なのです。それは、完璧主義の人にしてみれば、とっても気持ちが悪いことです。雑誌の山はまだ残っているのに上の三分の一だけ捨てて、もうこれでいいなんて思えない。収まりが悪い気分になると思います。でもそこをぐっと我慢する。今日はよくやったじゃない、少しでもゴミの山が小さくなったじゃないと自分で満足してみる。

 部屋の一角だけでもきれいになると、以前よりちょっとだけ快適になるはず。「あ、これだけでもマシ」と思えるようになってきたら、けっこうしめたものです。徐々に、「今日はこの未開封のダイレクトメールの山だけ捨てよう」という具合に気軽に手を出して、気軽にやめられるようになる。全部でなくても、気がついたところを片づけるだけで生活が快適になって、気持ちも楽になるのだとわかってくる。こうして部分的な片づけ方を練習しているうちに腰が軽くなって、「よし、今日散らかしてしまったところは今日片づけよう」と、こまめに片づけができるようになっていく。これが、心理学でいう“学習”です。

 中には、どうしてもそんなことできないという人もいるでしょう。そういう人には、「元気が出る曲を一曲かけて、その間だけ片づける。曲が終わったら、中途半端でも片づけをやめる。そういう練習をしたらどうか」と提案をします。さらに、それでもだめだという人には、「片づけサービスのような業者さんにお任せするのもいいんじゃないですか」とお話しします。そうすると、みなさん、「そんなことしていいんですか!」とびっくりなさる。

 先日も、ある女性が「私は独り暮らしなのにそんな贅沢なことしていいんですか」とおっしゃるので、「じゃあ、あなたは自分で片づけるのと、片づけサービスに払う料金分、自分で稼ぐのと、どっちがやりやすいですか」と尋ねてみました。彼女はう~んと悩んで、「今月は残業も多いから、片づけサービスを頼む料金を稼ぐほうが簡単かもしれない」と。そこで私は「じゃあ、迷わずに頼めばいいじゃないですか。その人たちはプロだから、お部屋を見てびっくりするようなこともないですよ」と、笑いながら話したのですが、笑って片づけのことを話せるようになったら、しめたもの。“ちょい片づけ”や、“だらしない部分片づけ”も、ほどなくできるようになってくるのではないでしょうか。

 いまの生活ってほんとうにものが多すぎる。ですから、私は基本的には、そんなにきれいに片づけなくてもいいと思うんです。いろんなものに囲まれて自分らしく便利に快適に暮らせれば、それでいいんじゃないか。それでもちょっと気になってきたら、「気楽に片づけて、気軽にやめる」部分片づけをしてみてはいかがでしょう。

【ココロの一滴】 片づけは、気楽に手をつけ気軽にやめる。

ココロの美容液

「片づけが極端に苦手」「ダイエットが長続きしない」「親を尊敬できない」等、30の悩みに精神科医ならではの具体的解決策を提案。
香山 リカ・著 ¥1418(文藝春秋)

» 立ち読み・購入はこちらから

 

2013.06.20(木)