アムステルダムで創業167年を迎えるロイヤル・アッシャー。数々の偉業を成し遂げてきた名門ダイヤモンドジュエラーが挑んだ20世紀初頭の一番勝負とは? 大英帝国国王をも頷かせた名カッターの技と、その麗しきダイヤモンドの魅力を紐解く。


“世界一のカッター”が 国王エドワードⅦ世を説得

 17世紀頃から“ダイヤモンドの街”として知られるオランダの首都、アムステルダム。遡れば中世から信教の自由が認められたこの地に、迫害を受けたユダヤ人が安住を求めたことが発端である。容易に携帯でき、資産価値が高い宝石類を彼らは好んで所有し、ビジネスの礎を築いたのだ。

 そんな歴史的にも個の自由と多様性を尊ぶ彼の地で、1854年に創業したロイヤル・アッシャー。現在、6代を数える名門ジュエラーは、長い歴史のなかでいくつもの偉業を成し遂げてきた。特筆すべきは1908年、世界史上最大のダイヤモンド原石「カリナン」のカットを成功させたことだろう。

 1905年に南アフリカで採掘されたこの原石はなんと3,106カラット。鉱山主の名が付き、先代ヴィクトリア朝から繁栄を極めていた大英帝国のエドワードⅦ世国王に献上された。当時、南アフリカは英国の支配下だった。

 その世界最強の国王に「ダイヤモンドはカットされ、磨かれ、輝いてこそ」と説き、決断に導いたのが、アッシャー社3代目のジョセフだ。当時はまだ、ダイヤモンドの“大きさ”を重視する風潮も強く、国王を頷かせた勇気、説得力、そして自信が並々ならぬものだったことは想像に難くない。が、彼はすでに’02年、58面をもつ「アッシャー・カット」を開発して一世を風靡。続く’03年には995.2カラットの原石「エクセルシオー」のカットを成功させ、“世界一のカッター”と呼ばれていた。ゆえに、当初は「カリナン」を“世界最大の原石のまま所有したい”と望んだ国王の心も動いたのだろう。

 こうしてジョセフとアッシャー社の面々は、1年以上の歳月をかけ、「カリナン」の結晶構造について調査・研究を進める。コンピュータなど夢のまた夢の時代、頼りは特注された100倍の拡大ルーペと、職人としての経験と知見。そしていざ、この世で最も硬い鉱物との一番勝負に挑むのである。

「カリナン」のカット成功 ロイヤルの称号を得て世界へ

 しかし最初のカットを試みた時、ダイヤモンドではなく刃の方が割れてしまった。そこで、より厚い刃で挑んだ。’08年2月、遂に「カリナン」は降伏。カットは成功する。この功績を讃え、エドワードⅦ世からはアッシャー社4人の名が刻まれた特注の銀杯が授与された。そして切り出されたダイヤモンドのうち、最大530.2カラットの「カリナンⅠ世」は英国王室の王笏に、317.4カラットの「カリナンⅡ世」は王冠に埋め込まれ、’53年、現女王エリザベスⅡ世の戴冠式で披露された。また「カリナンⅢ世」(94.4カラット)と「カリナンⅣ世」(63.6カラット)はブローチにデザインされ、今も女王の胸元で優美な輝きを放っている。

 こうした功績が認められ、’80年、オランダ王室はアッシャー社に“ロイヤル”の称号を授与。同社は今やオランダや欧州だけでなく、世界中にその輝きを送り出しているが、6代に及ぶジュエラーとしての栄華、そして「カリナン」の逸話は知れば知るほど奥深い。そして「絆のダイヤモンド」の奇跡は時空を超えて日本の花嫁の心に響き、その薬指に一層、華やかな輝きを与えてくれることだろう。

●お問い合わせ先
ロイヤル・アッシャー カスタマーサービス

フリーダイヤル 0120-407-957
https://www.royalasscher-jp.com/

2021.06.10(木)
Photo=Tetsuya Niikura(SIGNO)
Edit, Styling & Text=Mami Sekiya
Assistant Edit=Mai Ogawa
Special Thanks=Getty Images

CREA 2021年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

ちょっとだけアウトドア

CREA 2021年夏号

ちょっとだけアウトドア

特別定価900円

CREA6月発売号は「アウトドア」特集。ビルの間を移り行く空に道ばたに咲く草花、ベランダで感じる風――少しだけ感覚を拡げてみると、自然は案外私たちのすぐ近くにあることに気づきます。日常に落ちている、小さな自然の気配を拾い上げられたなら、窮屈に感じる日々も、少し楽しくなるかもしれません。ベランダで過ごす一日から、身軽なキャンプまで、アウトドア気分をちょっとだけ、お届けします。