負け続けた18年の間に、他人の痛みや自分の至らなさが痛いほどわかるようになりました。だから、いつも弱い人や「勝っていない」人たちにシンパシーを感じます。いづみの中にもそういう血が流れているんじゃないかなと想像して演技しています。
いつか道が拓けるかもしれない
──売れなかった18年の間に芸能界を辞めようと思ったことは一度もなかったのですか。
松本 ないですね……。でも苦しくてもがいてましたね、ずっと。
「誰にも求められていない」という現実と、「演じることが好き」という自分の欲求との葛藤の毎日でしたから。それでも「諦める」という選択肢がなかったのは、「好き」が勝っていたからだと思います。
大成している俳優さんって、演技力はもちろん、人間としての魅力が高い方ばかりじゃないですか。だから私もストイックに演技力と人間力を磨き続けていれば、いつか道が拓けるかもしれないと信じて、必死にやってきました。
私には演じることしかないので、演技の世界で挫折するようなら、たとえほかの道に逃げてもダメだと思ったんです。そういう意味では結構、雑草精神というか、根性だけはあったんじゃないかと思います。
支えになったのは“言葉”
──苦しい時、何を支えに頑張ったのか教えてください。
松本 私は、言葉によって救われてきました。尊敬する方の言葉や、テレビから流れてくる言葉、本などさまざまですが、人生の節目で出会ってきたたくさんの言葉に力をもらってきたように思います。本に出会ったのは30歳からなんですが、そこからはジャンルを問わずいろいろな本も読み続けています。
20歳くらいの時に松田美由紀さんからいただいた“自分が「こうありたい」という光さえ見失わなければ、どんなに遠回りしてもそこに行き着く”という言葉は、その後どん底の18年間のなかで、事あるごとに思い出して自分の支えにしていました。
全然ダメダメな状況で、人生も役者としてもどうしていいかもわからないという時でも、「もっと演技がうまくなるんだ」とか、「もっと人間力を磨くんだ」という光だけを見つめてきたので、光がどんどん広がって、18年かけてようやく今の場所にたどり着けたのではないかと思っています。
2021.05.15(土)
取材・構成=相澤洋美