『プリンセスメゾン』『繕い裁つ人』『どぶがわ』『ねぇ、ママ』など、人間の内面をていねいに描く作品を多く生み出している池辺葵さんがはじめてSFに挑む待望の最新作『私にできるすべてのこと』、いよいよ発売になります。舞台となるのは、人間に代わり労働をするためにヒト型AIが大量生産されて20年後の未来。AIが人間の仕事を奪うという声が上がり、世界中でAIの廃棄が始まるなか、忘れ去られたような田舎町で、穏やかな日常を過ごすAIと人間の物語が描かれています。池辺さんが一番伝えたかったこととは。作品の見どころについてもお聞きしました。(全2回中の1回目。【インタビュー後編、マンガ第1話、第4話を読む】
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──『私にできるすべてのこと』は近未来が舞台となっています。なぜこのテーマを選んだのですか。
池辺葵(以下、池辺) 実は始めから未来を描こうと思っていたわけではないんです。最初は、「生き物の命はすべて輝いている」ということが描けたらいいなと思っていたのですが、ネーム段階で、ありきたりの日常のようになってしまう気がして、インパクトを求めてAIを入れました。
──元監視カメラのAI・和音(わおん)が、人間の生命活動を「発光している」と表現するシーンは、とてもインパクトがありました。「輝いている」ではなく「発光」という表現を使ったのは、より機械らしさを表すためですか。
池辺 「輝く」という言葉は、情緒的で人間の感情のような気がします。私が描きたかったのは、ゾウリムシでもミトコンドリアでも、生きているだけで細胞は発光している、ということだったんです。
「一生懸命だから輝いている」ということではなく、生命体が粒子を発していて、それが発光しているのが実際に見えるAIがいたら面白いなと思って。
──「頑張っているから輝いている」と考える人は多いのではないかと思います。SNSの世界でも「他人の幸せそうな投稿と自分を比較して落ち込む」「『いいね』がストレスになる」など「キラキラしているものがすごい」というキラキラ至上主義的な考えは強いように感じます。
2021.03.18(木)
文=相澤洋美