ただならぬ感性がつくった化粧品の奥に潜むもの
a フリーラジカルから肌を守りつつ、肌を均一に整えるメイクアップベース。イルミネイティング プライマー 29g ¥7350
b、c シマー、サテンなど4つの質感で、クラス感のある目元に。アイ カラー クオード(b 01 GORLDEN MINK、c 12 SEDUCTIVE ROSE) ¥8400
d~g 指先、口元ともにヌーディカラーからレディな赤まで充実。ネイル ラッカー(d 02 TOASTED SUGAR、e 15 SMOKE RED) ¥3885、リップ カラー(f 07 PINK DUSK、g 10 CHERRY LUSH) ¥6300/TOM FORD BEAUTY(d~gは現在、阪急うめだ本店にて限定発売中。a~cは2/27発売。同日より伊勢丹新宿店でも発売予定)
あのトム・フォードが化粧品をつくった……確かにそれだけで大きなニュースになるし、フルラインが日本上陸を果たすとなれば、それだけで「ともかく見ておかなきゃ!」となるのだろう。何しろ、コスメ界に進出した最後の大物。エスティ ローダーとのコラボも話題となった。
でもそのニュース性や新しさだけがクローズアップされてしまうのは、何かちょっと違うと思う。もったいないと思う。なぜならトム・フォードは、本当の意味でモードの天才。いくつもの偉業を達成した成功者であること、とてつもない感性の持ち主であること、そしてジェンダーへの新しい提唱を続けてきたこと……そういう人がつくると、化粧品もただならぬ気配を宿すようになることを、知っておくべきなのだ。
たとえばトム・フォードは、破産寸前だったグッチを任されて、わずか数年で業界トップ3のブランドへと復活させた。しかもこの時、グッチと並行してイヴ・サンローランのクリエイターをも務めていた。あれだけのブランドを同時に成功させたことが、世界を驚かせたのは言うまでもない。「グッチはソフィア・ローレン、サンローランはカトリーヌ・ドヌーヴ」と語り、ふたつのゴージャスとセクシーを描き分けたのだから。
もっと言えば、男と女を分けずに人間としてのセクシーを描いた人。この人にとって性的魅力に男も女もない。それを香りで示し、今までにない“ユニセックス”の香りを提案したのも、大きな功績だ。進化した、一歩先ゆくセクシーを描ける、類まれな美意識と感性を持っていたのだ。
だから、トム フォード ビューティのメイクの容器は、一見男性的なのに、単純じゃない。今の時代、曲線と甘いディテールでつくったフェミニンの極みのようなパッケージがトレンドだが、トム・フォードはあえてクールでシャープなデザインで女を挑発し、女らしさや色気を引き出そうとする。色設計も同様、一見シックな色の奥からほとばしるような性的魅力を引き出そうとする。ズバ抜けた洗練がそうさせるのだ。トム・フォードの格上のものづくり、色設計の妙を見逃さないでほしい。
トム・フォードは過去に制作した広告ビジュアルで、男女が入り乱れるヌードを高い芸術性で表現するなど、きわめて挑発的な美を見せてきたが、そこではいつも自由奔放な感性と研ぎ澄まされた芸術性が、見事に溶け合っていた。トム・フォードにしかできないこと、とも言われた。そういう人がつくった赤、そういう人がつくったピンクを知りたいと思わないか? そういう人がつくった色の組み合わせ、光と影のコントラストを纏ってみたいと思わないか?
化粧品の品質や色の正しさは、もうほとんどのブランドが高いレベルをクリアしている。私たちが選ぶべきは、その先にあるドラマ性や官能性なのだ。塗ってみて初めて生まれるオーラ内蔵コスメを選ぶべきなのだ。トム フォードの製品にはそれがある。わずかなスキもない完璧な造形美の奥に閉じこめられた神秘性をきちんと見るべき。トム フォードでメイクすると、毎日会っている人をも、毎朝ハッとさせる“力強いキレイ”が生まれる。予測を上回るキレイが手に入る。そういうメイクものって、なかなかないはずだから。
Column
齋藤 薫 “風の時代”の美容学
美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。
2013.02.18(月)