その3) 絶妙なキャラクター設定で生み出す群像劇

 魅力的なのはヒロイン2人だけではない。キャラクター全員の行動にそれぞれの志とコンプレックスが描きこまれている。

 主人公・セロイのキャラ造型がまず見事だ。意志が強く、曲がった事が許せない、仲間想いのリーダー。

 言ってしまえばルフィ(『ONE PIECE』)から茶目っ気を引いたようなキャラなのだが、「長家に復讐する」という最終目標と「そのためにタンバムの仲間を大事にする」という信念が明快だ。ルフィの仲間思いっぷりにはっきりとした目的意識が足された按配なのでそのカリスマ性たるや、言わずもがなである。

 ラスボスたるライバル会社のトップからもファースト・コンタクトの時点で一目置かれている。ラスボスのドラ息子・グンウォンだけがセロイを馬鹿にするのだが、当のグンウォンが全員から馬鹿にされているので痛くも痒くもない。

 もちろん劇中でのセロイはひっきりなしに逆境に立たされ続けるのだが、観ている我々はセロイの凄さを信じ続けられるし、どう考えても負けようがないので安心して応援できる。

「マイノリティーにどう接するのか?」脇役が生み出す衝撃的なシーン

 脇役のエピソードで出色なのはマイノリティーの扱いだ。トランスジェンダーのヒョニ、ギニア人と韓国人のミックスのトニーというキャラが差別を受けるくだりがある。利益追求主義のイソは、店の体裁を気にして差別に加担してしまう。

 主人公を聖人君子に見せるためには「差別を許さない」と教科書的な姿勢を取らせれば簡単なのだが、ここで敢えて主人公の1人であるイソが正反対のスタンスを表明するのはなかなか衝撃的だ。

 ただ友達に優しくするのは簡単だが、そう言っていられない葛藤が生じる場面も現実にはある。結果的にセロイがポリコレ的に正しい方向に調整するのだが、ここでのセロイとイソのディベートはマイノリティーの仲間とどう接するかという命題へ真摯に向き合っている。

最低でカリスマ性もないのに 感情移入してしまう悪役

 そして特筆しておきたいのは宿敵のドラ息子・グンウォンも視聴者から愛されている点だ。カリスマ性がある悪役はよく愛される。逆にコミカルで憎めない悪役も愛される。しかしこのグンウォン、行動もリアルに最低だしカリスマ性もない、本来ならばとことん憎いキャラだ。

 そんな彼に感情移入する人もいるのは、これまたバックボーンの描き込みのおかげだ。偉大な父にその思想を押し付けられ、潰れてしまった「王になれなかった男」。彼が父・デヒに命じられて素手でニワトリを絞めるところは、本作最大のショッキングなシーンだ。

2020.07.19(日)
文=大島育宙