ロックバンドのRADWIMPSは、この3月から5月にかけて、中国で先行配信された「Light The Light」を皮切りに「猫じゃらし」「新世界」「ココロノナカ」とあいついで新曲を発表した。

 「Light The Light」は2月初旬、バンドのフロントマンを務める野田洋次郎が、中国で世話になっている人から、「新型コロナウイルスの影響で不安な生活を送る人々を励ます歌をつくってほしい」と打診を受け、手がけたものだった。

 このあと、3月に入ると日本でも感染者が急増し、全国で大半の学校が休校に入ったのをはじめ社会的にも大きな影響が出始める。そのなかでRADWIMPSも3月20日から予定していた国内ツアーを延期、ワールドツアーは中止せざるをえなかった。

 ワールドツアーは1年以上も前から準備していただけに、野田は落ち込み、2~3週間は何も手につかなかったという。

 そんな状況にあって、5月8日放送の「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)への出演が決まる。その放送当日までに新曲をつくるという目標が与えられたことが、野田には救いとなったようだ。当初、番組では、先にできた「ココロノナカ」を披露する予定でいたが、野田は歌ってみてどうもしっくりこなかった。

 この曲は、明日への希望を込めた応援ソングである。彼としては《これを歌うことで皆の心が癒やされてくれるのなら、それはもちろんうれしい》のだが、《でも、ただ“希望”をうたうだけでいいのかな、という違和感が、自分の中でどんどん強くなってしまった》という(※1)。

 ここから急遽、番組のために新たに書き下ろしたのが「新世界」だった。その歌詞には、「きっと同じ世界にはもう戻らない」とあるように、新型コロナによってすっかり変わってしまった世界のなかで、人々が抱く不安も織り込まれていた。

5人の女性から毎月100万円を受け取り……“俳優”野田洋次郎の仕事

 7月5日は、野田洋次郎の35歳の誕生日である。近年では、新海誠監督の劇場アニメーション『君の名は。』(2016年)、『天気の子』(2019年)の音楽をRADWIMPSとして担当したり、個人でも映画やドラマに俳優として出演したりと、映像関係の仕事も目立つ。

 連続ドラマ初主演となった「100万円の女たち」(2017年、テレビ東京系)では、同居する5人の女性たちから毎月100万円もの家賃を受け取りながら暮らすミステリアスな作家を演じた。

 そこでは感情を表にあまり出さない野田扮する作家が、ひそかに背負っている重い過去と向き合っていくさまが強い印象を与えた。

 一昨年には、プライベートでも親交のある松田龍平主演の映画『泣き虫しょったんの奇跡』に出演。さらに現在放送休止中のNHKの朝ドラ「エール」でも、昭和歌謡界のヒットメーカー・古賀政男をモチーフにした作曲家(役名は木枯正人)を演じている。

 俳優デビュー作は、2015年6月公開の主演映画『トイレのピエタ』だった。

 このとき野田は、才能がありながら絵を描くのをやめ、ビルの窓拭きのアルバイトで生計を立てる宏という青年を演じた。ある日、余命3ヵ月の宣告を受けた宏は、忍び寄る病魔に苦しみながらも、やがて自宅アパートのトイレの天井にピエタ(キリストの遺体を膝の上に抱きかかえた聖母マリア像)を描き始める――というのがそのストーリーだ。

 原案となったのは、1989年に胃がんで亡くなったマンガ家・手塚治虫が、病床での日記に書き残していたアイデアで、ここから松永大司監督がイメージを膨らませて映画化した。

 野田が『トイレのピエタ』への出演依頼を受けたのは2013年で、まず脚本を読ませてもらい、すばらしいとは思ったものの、当初は自分で演じようという気持ちにまではならなかった。彼としてみれば、《役者をやるっていうのは、ちょっと想像の範疇を超えてることだった》という(※2)。

 しかし、松永監督と会い、その後もメールでやりとりするなかで、先方から「僕が責任を持ちます」「洋次郎君なら絶対できると思うんです、というか洋次郎君じゃなきゃだめなんです」などと説得され、しだいに心を動かされていく。

 最終的に《じゃあ絶対に僕を諦めないでやってくれるんだったらやります》と言って承諾し、松永とはそれからクランクインするまで1年間、月1~2回は必ず会って、何気ない話をしつつ、野田は自分のなかで宏を育て、ストーリーも育てていったとか(※3)。

2020.07.22(水)
文=近藤正高