ビジュアルで時代を映し出す「まっとうなアーティスト」
そんなバンクシーがコロナ禍に黙っているわけもなく、新作を発表してやはり話題をさらったというわけだった。
さらにこの6月には、さらなる新作が彼のインスタグラムにアップされた。黒塗りの人物像の写真が壁に立てかけられ、ロウソクが添えられている。写っている人物の哀悼だろうか。壁には星条旗が掛かる。その右隅にロウソクの火が燃え移り、旗が今まさに燃やされんとしている……。
これはもちろん、米国での黒人男性暴行死事件に端を発する抗議デモに言及した作品。
一義的には、デモへの支持を表明する作品だろうと目される。ただ、そこに込められたバンクシーのメッセージは、それほど単純じゃないのかもしれないと思わせる。
ビジュアル表現はときに言語でうまく表現できない、複雑かつ曖昧な考えや思いをかたちにして示す。言葉の届かない部分にまで踏み込んで、問題の本質を観る側に直感的に教える力を、ときとして有するのだ。
バンクシーの近作には、そうした「ビジュアルの力」が存分に発揮されている。あまりに大きな時世の変化に直面し戸惑っている私たちは、言葉だけではうまく処理しきれぬ何かを抱え込んでずっとモヤモヤしているんじゃなかろうか。
そのモヤモヤをバシッと可視化し、問題の所在をはっきり示してくれているのがバンクシー作品といえるだろう。
単に美しいものを見せてくれるだけじゃない。ビジュアルによって時代を映し出すことこそ、アーティストが担う大きな役割だ。そんな大役をまっとうしている、いまどき珍しい純粋なるアーティスト。それがバンクシーであり、彼が広く支持を得る理由もここにある。
※こちらの記事は、2020年6月13日(土)に公開されたものです。
記事提供:文春オンライン
2020.06.23(火)
文=山内 宏泰