神聖な朝のお勤めから始まる
やくばらい散歩
翌朝は、比叡山延暦寺の根本中堂で行われる朝のお勤めから1日が始まる。「旅行に来ているのに早起きなんて」と思ったら損!
僧侶による読経や穏やかな法話に心と耳を傾ければ、きっと、日々の暮らしに生かせるヒントや気づきが得られるはず。
厄払いはまだまだ続くけれど、朝のお勤めの後は一度、「星野リゾート ロテルド比叡」に戻って朝食をいただく時間が用意されている。これも比叡山エリアにある宿だからできること。
テーブルに並ぶのは、美しくヘルシーな料理。地元で天然醸造酢を作り続ける「淡海酢(たんかいす)」とコラボレーションしたオリジナルのドレッシングも野菜にぴたりとあって、朝から食が進んでしまう。
この朝食には、ユニークなデザートも付く。精進料理として古くから食べられている食用菊を使った菊善哉(きくぜんざい)だ。
善哉とは、仏教用語で、お釈迦様が弟子に言われた「善き哉(よきかな)」という言葉にルーツがあり、菊は邪気を払うと言われている。
そんなダブルでありがたい菊善哉を食べて厄払いに出かければ、よりいっそう効果も期待できそう。
世界遺産でもある延暦寺は旅行者も多く、ともすれば観光スポットとしてのイメージもあるかもしれない。でも、その真の姿は日本屈指の修行の場。
7年かけて峰々を縫うように巡って礼拝し、その合間に9日間も断食、断水、不眠、不臥で経を唱える「千日回峰行」、12年も俗世間から離れたった一人で浄土院に籠る「十二年籠山行」、静かな堂内でひたすら座禅に没頭する「四種三昧」など、想像を絶するような荒行が連綿と続いている。
もちろん、「比叡山やくばらい散歩」に厳しい修行はなし。境内にある大講堂や文殊楼(もんじゅろう)などのお堂を巡り、御朱印をいただくことで、厄払いをする。
修行と違って簡単だけれど、非日常に身をおくだけでも、心の浄化になる。
心を和ませてくれるのは、比叡山の豊かな緑と、宿坊でいただく梵字ラテ。自分の干支に因んだ梵字のラテアートが施されたラテは、比叡山ならではのおもてなしだ。
宿坊と聞くと簡素な場所を想像してしまうけれど、こんな遊び心もあると知れば、比叡山が身近に思えてくる。
2019.08.31(土)
文=芹澤和美
撮影=釜谷洋史