「道の終わりにホテルがオープン」と、当時、大きな話題になったカハラ・ヒルトン・ホテル。今ならワイキキからカハラまで車でたった10分の距離が、1964年にはとてつもなく遠く、ワイキキから東へ向かって牧場と海しかないような場所にどうしてホテルを建てるのか、と地元の人の度肝をぬいたといいます。

ロビーからの眺め。低層建てのドルフィン・ラグーン・ウイングと6頭のイルカが住むラグーン

 開業当初は、客室係が空室の電気をつけてまわって、人が入っているように見せたりしたこともあったとか。そんな思い出話が、今でも勤める従業員同士の間で交わされる歴史あるホテル。今ではもちろん、空室に電気をつける必要のない人気のホテルです。ここには、数代のオーナーチェンジを経ながら、ザ・カハラ・ホテル&リゾートになった現在までずっと守り伝えられてきたパンケーキがあります。

焦がさず、膨らまさず、やわらかいカハラのパンケーキはとてもデリケート

「カハラ・デリカシー・シン・パンケーキ」。約50年前とまったく同じレシピで作られる繊細なパンケーキは、いつものハワイのパンケーキと全然、様子が違うのです。クレープよりちょっと厚い生地は、砂糖をほとんど入れずに作られるため、外側がしっとりとしていて、くるくるっと巻いてあります。そのくるくる巻きの薄いパンケ−キの上にかかっているソースが、 メープルバター。バターを泡立てながら、メープルシロップをごく細い線状に注ぎ入れて作る少しふわっとしたソース。メープルのほんのりとしたとろみ感があり、バターのフレーバーがメープル独特の甘さとからまるシンプルリッチの究極ソースです。また、ソースの分量が絶妙で、5枚のパンケーキを食べ終わる頃にはちょうどなくなっていることに毎回、驚きます。

ビーチに面したオープンエアのプルメリア・ビーチ・ハウス

「カハラ・デリカシー・シン・パンケーキ」は、朝から夜まで営業している「プルメリア・ビーチ・ハウス」の朝食ブッフェに並んでいます。でも実はこれ、いまはアラカルト・メニューに載っていません。でも、長年通うお客さんたちは、メニューになくとも当然のごとく、「カハラ・デリカシー・シン・パンケーキ」を頼みます。すると、ちゃんと出てきます。

 くるくる巻きのパンケーキが鎮座している様は、裏メニューでありながら、カハラの名物なのです! このパンケーキのレシピは、ホテルのデザート部門の人にのみ教えられ、いまは、オープン当初のシェフから直に教えられたという1名だけが作っています。だからいつ食べてもおいしい。伝統の味にぶれがありません。たとえレシピは教えてもらえても、きっとこの味を再現するのは難しいことなんだろうな~と思います。

 レストランで販売しているパンケーキ・ミックスは友人へのお土産には喜ばれますが、いつでも食べにこられる自分用にはなかなか手がのびません。やはりカハラで食べるのとは違うから。この場所の空気感の中で食べるから、洗練された、それでいてのびやかなあの味が体験できるのです。

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2012.10.21(日)