森村泰昌の
モリムラ@ミュージアム

日本の現代美術を世界へ打ち出してきた先人たちが、個人美術館を設ける動きが続いている。東京に草間彌生美術館、小田原には杉本博司による小田原文化財団江之浦測候所ができた。そしてこの11月、大阪に森村泰昌のモリムラ@ミュージアムが産声を上げた。
森村泰昌といえば、1980年代から継続して制作されている、セルフポートレート写真を用いた作品で知られる。つまりは「自撮り」なのだけど、ふだん私たちが撮るナルシスティックなものとは訳が違う。
ゴッホやレンブラントの自画像をみずから演じたり、ときにレオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》、マネ《オランピア》などの名画に入り込んだり、美術史にすっぽりその身を潜らせるのが彼の常套手段だ。また、マリリン・モンローやオードリー・ヘップバーンに扮する女優シリーズもあれば、ときにはアインシュタイン、チェ・ゲバラ、三島由紀夫ら歴史上の人物になりすまして写真に収まったりもする。

テレビでよく見かける、有名人のモノマネみたいなもの? そう誤解されることも以前はよくあった。いや、もちろん的確にツボを押さえ、寄せ集めの道具ばかりを用いて、年齢性別国籍を問わずどんな人物にも似せてしまう卓越の業に感嘆するのも楽しみ方のひとつ。が、森村作品はそれに留まらない。
ここで着目すべきは、かくも徹底した変態へと彼を駆り立てる動機である。森村は10代のころから作品やアーティスト、さらには美術の存在そのものと歴史に深い関心を持ち、「もっと知りたい」と痛切に願うようになった。
そのためにどうしたか。知識を仕入れて美術理論を振りかざすのではなく、憧れの対象を丸ごと吞み込み、着こなしてしまおうとした。自分の中に取り込み消化することで、作品やアーティストを昇華させる方法を選び取ったのだ。
現在主流になっている現代アートの由来は、むろん西洋にある。そこから遠く離れた日本の地で、なぜ私たちは喜んで美術をつくったり観たりするのか。アジア人たる森村泰昌が西洋名画に入り込まんとする姿からは、そんな真摯な問いかけも垣間見える。明治維新からこのかた、日本人が背負い続けるアイデンティティの問題が、森村の創作では常に意識されているわけだ。

森村の地元・大阪にできた個人美術館では現在、1980年代の初期作品を中心とした展示がなされている。一貫したスタイルを持つ森村作品のルーツを知ることができる、またとない機会だ。
M@M開館記念展
『君は「菫色のモナムール、其の他」を見たか?』
会場 M@M(モリムラ@ミュージアム) (大阪府・大阪市)
会期 開催中~2019年1月27日(日)
料金 一般 500円(税込)ほか
https://www.morimura-at-museum.org/
2019.01.03(木)
文=山内宏泰
CREA 2019年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。