額に稲妻の傷跡をもつ魔法使いの少年の物語『ハリー・ポッターと賢者の石』が英国で出版されたのは、1997年のこと。当時は無名の作家だったJ・K・ローリングによる初版わずか500部から始まったハリー・ポッター・シリーズ全7巻は、この20年間で世界80言語に翻訳され、総計販売部数4億5000万部以上という歴史的な数字を記録、映画も大ヒットを博しました。

 子どもだけでなく、大人をも魅了したこの作品のマジカルな世界に浸れる、英国内のスポットを巡る旅へとご案内しましょう。

映画のグラフィック・デザイナー
「ミナリマ」の世界に浸る

ピンクが際立つ「ハウス・オブ・ミナリマ」。週末や学校がお休みの期間は、開店前にすでに人々の行列ができることもあります。

 ロンドンのパレス劇場では2016年から、ハリー・ポッターの次男アルバスを主人公とした舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」が上演されています。その劇場から目と鼻の先にある、もうひとつのハリポタ・ファン必見のスポットが「ハウス・オブ・ミナリマ(House of MinaLima)」です。

 ハリー・ポッターの映画シリーズ第1作から、グラフィック・デザイン全般を担当したミラフォラ・ミナさんと、2作目から携わったエドゥアルド・リマさんが、ハリポタ映画制作が一段落ついた2009年に「ミナリマ」としてデザイン・スタジオを設立。「ハウス・オブ・ミナリマ」は、これまで彼らが手がけてきた数々の作品の展示と同時にグッズの販売を行っているギャラリー・ショップです。

ミナリマのミラフォラ・ミナさんとエドゥアルド・リマさん。
ウィンドウには、「BACK TO HOGWARTS」のサインが。

 映画制作におけるグラフィック・デザイン、といっても、すぐにピンとこないかもしれませんが、例えばハリーがホグワーツ魔法魔術学校から受け取った入学許可、劇中に登場する日刊予言者新聞、ホグワーツで使用している教科書、タペストリー、おたずね者のポスターなどなど、実は必要とされるアイテムは膨大な数に上ります。

 映画では一瞬のみ、また全体のごく一部しか映らない作品を、じっくり細部にわたりこころゆくまで鑑賞できる場所、ということで、2016年6月にオープンしてから、実に1万6000人ものハリポタ・ファンが足を運んでいます。

1階は、ポストカードや本、ステーショナリーなどを扱うショップ・スペース。
日刊予言者新聞がずらり。よーく目をこらすとおもしろい記事がいっぱいなのです。

「普段は完全に裏方で、観客と直接触れあうことがまったくない仕事なので、こういう場を持つことで、ファンの反応を見られることは私たちのやる気にもつながるんですよね」と、ミラフォラさん。

 ハリポタ・ワールドから抜け出してきた、しかしリアルで実体のある作品を前に感激のあまり泣き出してしまうファンも少なくないのだとか。過去20年間、ハリーとともに成長してきた世代にとっては特に、ひとつひとつのアイテムが自分の子ども時代の思い出をフラッシュバックさせるのかもしれません。

2017.12.30(土)
文・撮影=安田和代(KRess Europe)