風土で醸すことで生まれる
「旭萬年」だけの味

 渡邊酒造場があるのは、鰐塚山の麓に広がる宮崎市田野。酒造場の歴史は、アメリカに渡った初代が帰国後に、この地で焼酎蔵を購入したところからはじまる。

芋畑のことを説明する渡邊さん。さつま芋はやせた土地でも育つが、渡邊酒造場では土壌づくりからこだわる。
芋焼酎の原料となる「コガネセンガン」は、葉脈が紫色なのが特徴。

 代々受け継ぐブランドが「旭萬年」。4代目となる渡邊幸一朗さんは、受け継いだ芋畑と醸造の技術を守りつつ、新しい工夫とチャレンジを続ける毎日だ。

5月末の芋畑。8月ころに収穫することが多いが、渡邊酒造場では10月頃まで待って芋を太らせる。

 渡邊さんが大切にしているのが「風土で醸す」ということ。「たとえばワインの世界では、テロワールという考えがあります。土壌や気候、地形がワインに与える影響のことで、焼酎にも同じことが言えると思うのです」と言う。

「焼酎は、目に見えない微生物が作用して造られます。微生物は目に見えないけれども、土の中にも、空気の中にも存在する。これらを活かして、ここでしか生まれない焼酎を造り続けたい」

 たとえば通常、収穫した芋に付いた土は、丁寧に水で洗い流す。しかし土壌にも、その土地にしかいない微生物が含まれる。土は醸造の過程で取り除くことができるので、微生物の力を活かすため、渡邊酒造場ではそれほど几帳面に土を取り除かないのだそうだ。

左:もろみを撹拌するときには窓を開けて外の風を通す。
右:奥にたてかけてあるもろみをかき混ぜる道具は、地元の竹を使って作ったもの。
最後の蒸留過程はこちらで。

 酒造場の環境も面白い。「宮崎市田野というエリアは、実は漬物用大根の一大生産地なのです」と教えてくれた。この地では、冬になると漬物用の大根をやぐらに吊るして干す風景が見られるのだそうだ。聞くと、渡邊酒造場の隣も大根農家。

 酒造場内に風を通して場内の室温を調整するのだが、あるとき専門家にもろみの成分の調査をしてもらうと、漬物に多く含まれる乳酸菌の量が多かったという。

「もしかすると、大根農家に囲まれた環境のせいかもしれませんね。でも、この環境を含めて旭萬年の味ができている。もしこの町から大根農家がなくなったら、焼酎の味が変わることがあるのかもしれない。でも、それが旭萬年の味。“風土で醸す”とは、そういうことだと思うのです」

渡邊酒造場では地球環境保護の観点から、醸造過程で発生する廃棄物を自家処理するためのプラント設備も所有する。

 渡邊さんの視点は未来に向いている。将来の地球環境を考えて、廃棄処理のためのプラントを新設したほか、新しいアイデアで「旭萬年」の可能性を広げている。

 食事と一緒に焼酎を楽しめるようにと、アルコール度数を12度に抑えた「旭萬年 Spicy.Sweet.Smooth」も商品化した。「アルコール度数が25度前後の焼酎は、食事と一緒に飲むには度数が高い。そこで度数を下げて、水やお湯で割らずにダイレクトに味わってもらえたらと思って造りました」。

 また、5月中旬から8月末まで限定の「夏のまんねん」はアルコール度数20度。暑い夏にさっぱりと飲みやすく、ロックでついつい杯が進む。

「十(ten)」と名付けた特別な焼酎を桐箱に入れて。

 渡邊さんは、「DINING OUT MIYAZAKI with LEXUS」のゲストへのお土産に、2代目が最後に手掛けた10年古酒を用意した。「祖父は約60年間、焼酎を造り続けた人で、旭萬年の基礎をつくった大きな存在。DINING OUTがちょうど10回目を迎えたということで、ゲストの皆さんにも祖父が手掛けた味を一緒に楽しんでもらいたい」と言う。

 100年前にはじまった家業を守り、続け、チャレンジしていく渡邊酒造場では、今日も強烈に照りつける宮崎の太陽の下、家族総出で芋畑に出ているのだろう。5月に見た芋畑はこれから夏を越え、秋に収穫期を迎えて、ようやく醸造の過程にはいる。宮崎市田野の風土で醸された、今年の「旭萬年」で乾杯する日が待ち遠しい。

宮崎食材の魅力を再発見
「DINING OUT」第10弾開催!

2017.07.06(木)
文・撮影=CREA WEB編集室